埼玉県八潮市で1月28日に発生した道路陥没事故は男性1人が安否不明のままだ。なぜ突然道路の陥没が起きたのか。上下水道について25年以上取材してきた記者の奥田早希子さんが東京大学大学院の佐藤弘泰教授に聞いた――。
県道が陥没しトラックが転落した事故現場。発生から1週間がたった=2025年2月4日午後2時15分、埼玉県八潮市(共同通信社ヘリから)
写真提供=共同通信社
県道が陥没しトラックが転落した事故現場。発生から1週間がたった=2025年2月4日午後2時15分、埼玉県八潮市(共同通信社ヘリから)

なぜ下水管に穴が空いたのか

2025年1月28日午前10時ごろ、八潮市内の中央一丁目交差点の道路が突然、陥没した。驚くことにアスファルト舗装の下にあるべきはずの土砂はなく、大きな空洞が口を開けていた。土砂はどこへ行ったのだろうか。

陥没現場の地下には直径4.75mの下水管が埋まっており、土砂はその下水管に空いた穴から吸い込まれてしまったのだ。その結果、大きな空洞が形成されたとされている。

ではなぜ、下水管に穴が空いたのだろうか。一般的に下水管に穴が空く要因として知られているのは、地震による破損、地盤の影響、交通荷重、下水管の腐食などがある。今回の現場ではそれら要因が複合的に作用したと考えられるが、下水管の腐食がトリガーになったことはほぼ間違いない。

腐食を引き起こしたのは「硫化水素」と呼ばれるガスだ。私たちが使う洗剤、うんちやおしっこなどに含まれる硫黄を基に、下水管を流れる間に生成される。硫化水素のままなら良いのだが、下水から空気中に放出されてひとたび硫酸に変化すると下水管を腐食しはじめる。

見えてきた3つの新たな要因

ただ、疑問なのは、硫化水素が発生した要因である。テレビ報道に出る地盤の専門家などは、現場で管路がカーブしていて硫化水素が発生しやすい環境だったからと解説しているが、果たしてそれだけだったのか。

カーブしている管路など、日本国内にざらにある。あれほどの大きな管になれば、厚みもある。それでもなお今回の事故が発生したとなれば、ほかにも要因があって、大量の硫化水素が発生していたのではないか。その要因を考えることが、次の事故を防ぐことに繋がるのではないか。そう考え、東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐藤弘泰教授をはじめとする下水管の調査や管理の専門家に話を聞いた。その結果、「太さ」「地点」「乱れ」という3つの新たな要因が見えてきた。