マンホールの地点で約2mの高低差
さらに、現地の状況に詳しい専門家から、「下水管が埋設されている深さに大きな差がある」との指摘を受け、県が管理する下水管(緑色の線)に着目し、埋設深さを比較した。その結果、その指摘通り、マンホールに流れ込んでくる上流側(図表2のマンホールの左側)の管底と、マンホールから出ていく下流側(同右側)の管底には約2mもの高低差があることが分かった。もちろん、下流側が低い。その落差を下水が流れ下ることになる。
現地の状況に詳しい専門家によると、「マンホールに流入する下水はまるで滝のよう」とのこと。そうなれば下水の流れに乱れが生じ、硫化水素が空気中に放出されやすいということは想像に難くない。
佐藤教授にこの情報を伝えたところ、「この落差が硫化水素を水中から空気中に解き放つ非常に支配的な要因であるように思われる」とのことだった。
ただし、この高低差があるからこそ、電力などは使わなくても、重力の力だけで下水を下流に流すことができるということを付記しておく。
下水道がなければ生きていけない
ここでは硫化水素、硫酸の発生について推察したが、もちろんこれが今回の事故の要因のすべてではない。佐藤教授も地下水位の高さ、雨水を流す管からの漏水、昨今の豪雨の多発、現地の地質の影響などの要因も指摘しており、「不幸な条件が複数絡んでいるものと見ています」と述べている。
「平成27年に下水道法が改正され、下水道の維持管理に向けての体制が整備されました。それからおよそ10年が経ちますが、今はまだこれから長く続く維持管理の時代の幕開けに過ぎません。まだまだ研鑽を積み重ね、技術を高めていかなければなりません。今回の事故からたくさんのことを学び、今後の下水道の維持管理に活かしていかなければなりません」(佐藤教授)
国土交通省によると、私たちの足元には約49万kmもの下水管が張り巡らされている。そのうち、「標準耐用年数」と呼ばれる下水管の寿命50年を超える管の割合は、現時点で約7%、約3万kmとまだ数字は小さいが、20年後には約40%、約20万kmにまで一気に増加するという。その中には場所ははっきりと記せないが、こうした八潮市のような場所は全国にいくつかあると専門家は指摘している。いつどこで、八潮市と同じ事故が起きてもおかしくない。
それを回避するには、私たちの身体と同じように下水管の「健康診断」をして状態を把握し、状態が悪ければ「治療」すること。そのためには「カネ」が必要であり、その財源は下水道使用料と税金である。トイレの水が流れてくれれば下水道は大丈夫と思いがちだが、地下でひそやかに崩壊している現実を今回の事故は私たちに突き付けた。政治のみならず、私たちひとり一人もまた、福祉や教育などと同じように、下水道の「健康診断」や「治療」にも税金を配分する覚悟が必要である。
