仕事や暮らしのあらゆる領域にAIが浸透する中で、「人間の存在価値はどこにあるのか」という問いが、これまでになく突きつけられている。感動プロデューサーの平野秀典氏は「そのヒントは、私たちが古くから自然や文化の中で培ってきた自然知能にある」という――。

AIに仕事を奪われる不安に効く処方箋

――いまこそ「人間ならでは」の力を思い出せ――

世界はAI革命の真っただ中。

他人事だと思っていたら、生成AIが日常に実装されてきて、あっという間に自分ごとになってきました。

ニュースやSNSでは、次々と「AIが仕事を奪う」「人間の存在価値が揺らぐ」という言葉も増えています。

確かに、ハリウッド映画で描かれるAIは、どこか怖く、敵として立ちはだかるイメージが強い。『ターミネーター』のスカイネットは人類を支配しようとし、『マトリックス』では人間は仮想世界に閉じ込められる。

けれど、日本の物語はちと違う。

鉄腕アトム』は人間と共に成長し、守り合うヒーローだ。
ドラえもん』は未来の道具を使いながら人を助け、笑顔をつくる。

この違いは、単なる舞台設定ではなく、未来に対する根本的な考え方の違いを映し出しているのです。

欧州ではすでに「第5次産業革命」と呼ばれる新しい潮流が始まっています。

AIやIoTを活用する現在の「第4次産業革命」が効率化を徹底的に追求してきたのに対し、第5次産業革命は「人間中心」をコンセプトに据えているのです。

人間が本来持つ創造性を活かし、社会全体の課題解決と経済発展を両立させようという動きです。

では、日本はどうか。

実は、この流れに必要な能力を日本人は昔から持っていました。

その一つが「感動力」。

感動とは「期待を超える瞬間」

「感動力」は単なる感受性ではありません。

「感動」というと、映画を見て涙することや、音楽を聴いて心が震えることを思い浮かべる人が多いでしょう。

しかし私が20年以上にわたり提唱してきた「感動力」は、それだけではありません。

感動とは「期待を超える瞬間」に生まれます。

人は想定していたことを少しでも超えたときに心を動かされます。

そしてその心の動きは、人を行動に駆り立てる力になるのです。

営業の現場では契約に、教育の現場では学びの深化に、組織の現場では人間関係の信頼に直結する。

つまり「感動力」とは、相手の期待をつかみ、それを超える表現や行動を生み出す力のことです。

これはAIには代替しにくい、人間固有の能力だといえます。