「ハイ、ハイ、私が鈴木修です」
「働いて、働いて、働いて……」。流行語大賞にもなった高市早苗総理の発言である。「働き方改革」という言葉もなかった時代、鈴木修は働き続けていた。経営者として。
鈴木修が60代だった頃、全国紙の浜松支局に駐在する記者が、とある土曜日の午後、スズキの代表番号に電話を入れた。
時間を持て余していた記者は、広報担当者が出社しているかもと考えたからだったが、すぐに「ハイ、ハイ」とオジサンの軽快な声が返ってくる。記者は『きっと警備のオジサンだろう』と想像しながらも、鈴木修社長への取材をお願いしたいと要件を伝える。すると、軽快な声のオジサンは答えた。
「私が鈴木修です」、と。
その場で日程は決められ、「広報には私から伝えておく」と言って受話器は置かれた。この話は静岡に駐在していた別の記者からの伝聞だが、各紙の経済部自動車担当の多くが知る“伝説”である。
8時間以外の2時間をどう使うか
秋田スズキ会長の石黒寿佐夫は、指摘する。
「鈴木修さんは、鮫や鮪と一緒。いつも動き続けている。逆に動かなくなると死んでしまう。あれほど働く人を私は知らない」
2000年代、会長だった鈴木修は言った。
「役職が上位に上がるほど、たとえ休日であっても自分の仕事について強い意識を持ち続けることが必要なんだ。
僕は日曜日に会社に来て、仕事をしている(土曜のこともある)。
僕の一週間は金曜の夜まで仕事をして、そのまま温泉に向かい、風呂に浸かり仲間と一泊して、土曜はゴルフ。プレーを終えると帰宅して、日曜日には出勤する。土曜日も日曜日もゆっくり休んでしまうと、僕は仕事への緊張感を持続できなくなってしまうんだ。
もちろん、僕がそうするから社員に休日まで出勤せよと、言っているわけではない。ただし、役職が上位となるほど責任は重くなることを当事者は自覚してほしい。スズキは国内外で激しい競争に晒されている。8時間働いたから、それで十分だなどと緊張感を失ったなら、すぐにライバル社にやられてしまう。
会社にいる8時間以外の2時間を、仕事について意識してほしい。一時間は今日の仕事の反省、もう一時間は明日何をするべきかを考える。これだけで、のんびり構えている人との差は多く広がる」


