※本稿は、松村邦洋『松村邦洋懲りずに「べらぼう」を語る』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
“YOSHIWARA”を世界に広めたメディア王・蔦重
NHK新大河ドラマ『べらぼう』、冒頭から吉原尽くしですね。蔦屋重三郎(以下、蔦重)は生まれも育ちも吉原。『べらぼう』ではいろんな意味で、吉原がすごく大きなウェイトを占めます。キャスティングを見ても、ここに関わる人が大勢いますね。
大遊郭・吉原は今でいえば新宿・歌舞伎町のような風俗街でありながら、銀座のようなセレブの社交場であり、渋谷や原宿のような流行の発信地でもありました。
そして江戸の二大悪所、つまりよい子が行っちゃいけない場所の一つでした。行っちゃいけない場所は行きたい場所、魅力いっぱいの場所です。当時はもちろん、今は海外でもYOSHIWARAの魅力が知られているのは、遊女たちを描いた美しい浮世絵(錦絵)という新しいメディアがあったから。
その浮世絵を爆発的に拡散させて、吉原を“大人のテーマパーク”にしたプロデューサーが蔦重というわけです。ちなみにもう一つの悪所は芝居小屋、つまり歌舞伎ですね。こちらも後に蔦重が深く関わることになります。
蔦重を取り巻く美女たち~花魁、新造、禿……~
舞台は吉原・となると登場人物で気になるのは遊女たち。花魁、大夫、呼び出しといった高級遊女から中級の新造、下級の切見世、局見世、見習いの禿まで様々です。
そのうち、小芝風花さんが演じるのが老舗の妓楼「松葉屋」の伝説の花魁・瀬川(襲名前の名は花の井)。親に捨てられ、吉原で育ったという境遇が似ている蔦重の幼なじみで、何でも話せる良き相談相手という設定ですが、すごくきれいな上に堂々としてて風格がありますね。
実在の人物でして、後にある人物に1400両(1億円超!)で身請けされるんですが、その後は悲劇的な運命をたどります。小芝さん、これはいい役ですね。
ドラマの主人公には、物語を動かすパートナーが大事です。でも、それは正式のパートナーじゃないことが多い。
同じ大河の『真田丸』(2016年)で言えば、真田信繫の正室で松岡茉優さん演じる竹林院ではなく、長澤まさみさんの“きり”でしたし、『鎌倉殿の13人』(2022年)の八重姫はすぐ退場しそうな役回りでしたが、新垣結衣さんが演じるってことは……と思ったら、やっぱり小栗旬さん演じる主人公・北条義時との前半での関わりがドラマの中では大きかった。今回の小芝風花さんも、相当重要な役でしょうね。