※本稿は、山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム 社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
日本人は他国に比べて権力に従いやすい?
オランダの心理学者、ヘールト・ホフステードはIBMからの委託に基づいて「目上の年長者に反論しにくい度合い」を調査し、これを数値化して権力格差指標=PDI(Power Distance Index)と定義しました。
ホフステードによれば、権力格差は「それぞれの社会において、権威を持たない立場にある人々が、既存の権威を受け入れ、それに従おうとする程度」と定義されます。
権力格差の小さい国では、人々のあいだの不平等は最小限度に抑えられる傾向にあり、権限分散の傾向が強く、部下は上司が意思決定を行う前に相談してくれることを期待し、特権やステータスシンボルは社会に受け入れられません。
一方、権力格差の大きい国では、人々のあいだに社会的不平等があることはむしろ望ましいと考えられており、権力弱者が支配者に依存する傾向が強く、組織や社会では中央集権化が進み、部下は上司に対して反論したり意見したりすることに気後れし、特権やステータスシンボルが身分や経済力を示すシンボルとして社会で機能します。
つまり言い換えれば、権力格差というのは「その社会がどれくらい権威に対して反抗的であるか」を指し示す指標なのです。
権力格差は「主流になっている宗教」で分かれる
主要国の権力格差指標を確認してみましょう。日本の数値は54で平均より少し上、同じ東アジアの韓国、台湾、中国よりも低く、アジアの中では権力格差が比較的小さい国と言えます。一方権力格差の小さい国々は、デンマークやスウェーデンといった北欧諸国、スイス、ドイツ、オランダといった西ヨーロッパ諸国、そしてカナダ、アメリカが並びます。
以下の図表1を見て、ある興味深い傾向があることに気づいた人もいるでしょう。そうです、権力格差の高低は、おおむね「その国で主流となっている宗教」によってグルーピングできる傾向があるのです。
たとえばアジアを中心とした儒教国は全般に権力格差が高めであることがわかります。儒教という宗教は言うなれば「人間関係に関するルールの集合体」ですが、そのルールの筆頭に来るのが「年長者に逆らってはならない」という規範ですから、儒教の影響が強い国で権力格差が大きくなるのは当然だと言えます。
また、ローマ法王を頂点とした明確な位階制度を有するローマ・カトリックの影響が強い地域で権力格差が高くなる傾向があるのも、同様に理解できます。一方で、世界で最も権力格差の小さい国々を眺めてみると、これらの国々がことごとくプロテスタント諸国であることに気づかされます。