「反抗は社会資源である」ことを忘れてはならない

デンマーク、スイス、オランダ、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーといった国々は世界で最も権力格差の小さい国ですが、これらの国はことごとく国際競争力ランキングでも上位のポジションにある一方で、権力格差の高い国々が、全般に国際競争力で劣っている様相が見て取れます。

国際競争力ランキングは、経済力・政府の効率性・教育水準・インフラの整備状況等、様々な社会的指標の組み合わせで決まっており、その評価手法には、評価する主体の恣意的価値観が大きく反映されています。したがって、このランキングにおいて上位にあることが、万人にとって望ましい社会であることを意味すると断定するつもりはありません。

しかし、この指標が、現時点で考えられる「民主化・文明化の進んだ社会のあり方」についての一定の基準となり得ると考えるのであれば、このデータは、クリティカルであること、既存の権威やシステムに対して反抗的であることが、いかに社会の開発・発展にとって重要な要件であるかということを示唆しています。

批判的であること、反抗的であることを止めてしまった社会は停滞してしまう。もし、そうなのだとすれば、私たちにはあらためて「反抗は社会資源である」という命題を肝に銘じて、自らの態度や価値観を改めていくことが求められます。

人類史上最も読まれた聖書と『共産党宣言』の共通点

批判的・反抗的であるということはまた、人を惹きつける要素ともなります。歴史的に大きな運動を生み出すことになったテキストの多くは、目の前に繰り広げられる光景に対する批判をテキストの主軸にしており、批判を乗り越えた先に実現すべきビジョンについては、あまり具体的なことを示していないということも、私たちはすでに知っています。

人類の歴史において、最も大きな運動を引き起こすことに成功したテキストといえば、何といってもキリスト教における聖書とマルクスによる著作、なかでも『共産党宣言』ということになりますが、両者には共通項があります。それは「運動の結果として最終的にやってくるのがどのような世界なのか? についてははっきり描写されていない」ということです。

テーブルの上の聖書
写真=iStock.com/Daniel Tadevosyan
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新約聖書においては、しばしば最後の審判を経てやってくる「神の国」についての言及がありますが、具体的にそれがどのような場所なのかについての説明はありません。ルカ福音書において、イエス自身は「神の国は、見える形では来ない」とした上で「神の国はあなたがたの間にあるものだ」と、今日で言うところの社会構成主義を先駆けるような表現で説明していますが、具体的なイメージが湧く記述ではありません。