2023年の道交法改正で、自転車に乗るときはヘルメットを着用することが努力義務となったが、街中でヘルメットをかぶっている人は少数派だ。なぜヘルメットが必要なのか。自転車評論家の疋田智さんは「私の息子が自転車で交通事故に遭い大怪我をしたが、ヘルメットをしていたおかげで頭蓋骨の上半分はほぼ無傷で済んだ」という――。
ヘルメットのおかげで息子の命が助かった
まず最初にこの写真を見ていただきたい。これは高1の長男あきが手術後に私に書いたメッセージだ。
手術後、彼ののどからは気道チューブが出ていて口がきけないので筆談で。「PP」とは「パパ」のこと。
「パパは、ヘルメットの重要性を(みんなに)伝えなさい」と言っている。
あきは10月30日の朝、いつものように自転車で高校に通学する途中だった。その道すがら交通事故に遭った。相手はクルマ。ひとつでも何かが間違えば死ぬほどの大事故だったが、後述するようにヘルメットのおかげで助かったといえる。
救急車で搬送され、気道確保、止血、応急手当ほかの後に、緊急手術となった。手術は午前1時までかかった。
頭蓋骨のレントゲン写真を見ると、上半分は無事だが、下半分は前歯が吹っ飛び、顎が4つのピースに砕けているのが分かると思う。当初は舌が裂けて大量出血し、食道・気道が詰まり、要するにそのまま放っておいたら死んでいた。
駐車場からバックしてきたベンツと衝突
なぜこんなにひどい事故になったのか。事故の構図は信じがたいものだった。
現場は片側1車線のバス通り。
そこをあきはいつも通り車道の左端をまっすぐに進んでいった。すると、逆車線側の駐車場から、いきなり中型のベンツがバックで出てきたという。後方確認もなく。
加害車両が後方確認をしておらず、自転車の存在を認識していなかったことは、後にドライブレコーダーで確認した際に明らかになっている。衝突の際、ドライバーはさも「意外」であるように驚きの声をあげているのだ。