「Duolingo(デュオリンゴ)」は、語学アプリの中でダウンロード数・収益ともに世界1位、90%以上のシェアを誇る。その圧倒的な人気の背景には、意志の力に頼らない、ユーザーを夢中にさせる仕組みがあった。

「ゲーム感覚」で熱中させる仕組みがある

英語を学び直そうと思ったとき、かつては高額な授業料を払って英会話スクールに通うのが「常識」でした。しかし今、その学習の主戦場は、月額無料あるいは数千円で利用できるスマホアプリへと劇的にシフトしています。

アプリの優位性はコストだけではありません。「心理的な安全性」という面で、決定的な違いがあるのです。

第二言語習得論(SLA)には「アフェクティブ・フィルター(情意フィルター)」という重要な概念があります。不安、緊張、自信のなさといった負の感情が、脳の言語習得機能をブロックしてしまうという理論です。生身の人間と対面するレッスンでは、「間違えたら恥ずかしい」という緊張感が常に伴います。このストレスが学習効率を下げてしまう要因でした。しかし、相手がアプリやAIであれば、どれだけ初歩的なミスをしても恥ずかしくありません。この心理的安全性こそが、爆発的な普及を支えているのです。

数ある語学アプリの中でも、デュオリンゴは累計ダウンロード数・収益ともに世界1位で、90%以上のシェアを獲得しています。その背景には、「ゲーミフィケーション」と「合理的な経営戦略」の両輪があります。

「ゲーミフィケーション」とは、レベルアップやランキングなどゲームの仕組みで学習に熱中させる仕組みです。

白井 恭弘(しらい・やすひろ)言語学者、ケースウェスタンリザーブ大学認知科学科教授。上智大学外国語学部英語学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校修士課程(英語教授法専攻)、博士課程(応用言語学専攻)修了。Ph.D.(応用言語学)。コーネル大学東アジア研究学科准教授などを経て現職。
白井 恭弘(しらい・やすひろ)言語学者、ケースウェスタンリザーブ大学認知科学科教授。上智大学外国語学部英語学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校修士課程(英語教授法専攻)、博士課程(応用言語学専攻)修了。Ph.D.(応用言語学)。コーネル大学東アジア研究学科准教授などを経て現職。

たとえば「ストリーク(連続記録)」という機能があります。毎日1つ以上のレッスンを完了(またはストーリーを読了)すると、数字が「1」増えます。ストリークを伸ばし続けると、プロフィールに特別なステータスが表示されたり、専用のイラストやメッセージでお祝いされたりという特典があり、優越感を得られます。ところが、1日でも学習をサボると積み上げた記録が「0」に戻り喪失感を抱くことになるので、ユーザーは毎日ログインしようと必死になるのです。

世界中の学習者とポイントを競わせる「リーグ戦」という機能もあります。ブロンズから始まり、ダイヤモンドリーグといった上位ランクを目指す過程で、ユーザーは「XP(経験値)」を稼ぐことに没頭していきます。

このXPを稼ぐための「攻略法」が、ユーザーの間で定石化しています。たとえば、朝にレッスンを行うと「早起き宝箱」が手に入り、夜にその宝箱を開けることで、15分間だけ獲得ポイントが2倍になる「ブースト」がかかります。この「ポイント2倍タイム」を最大限に活かすため、本来の学習そっちのけで、短時間で大量のXPを獲得できる「無限カルタ」(制限時間内に単語をマッチさせるミニゲーム)や、過去の簡単なレッスン(Unit 1など)をひたすら繰り返すユーザーもいます。難しい新単元に進んで時間をかけるよりも時間あたりの獲得XP効率がいいからです。

このゲーミフィケーションの中毒性こそが、デュオリンゴの強みです。

もうひとつの強みが「合理的な経営戦略」です。同社は拠点を米国・ピッツバーグに置いています。ここにはカーネギーメロン大学やピッツバーグ大学といった、コンピュータサイエンスや学習科学の世界的研究機関が集中しており、その「地の利」を活かして優秀なエンジニアや研究者を確保しています。

(構成=東香名子 画像提供=時事通信フォト)