2027年4月から、会社の健康診断に、腎臓の機能を診る「新項目」が加わる。成人の約5人に1人ともいわれる腎臓病について、いまこそ知っておきたい「傾向と対策」を専門医に聞いた――。
なぜいま「健診」が変わるのか
尿検査が「正常」でも腎臓は弱っている?

腎臓病の発症リスクは長時間労働で約2倍に

これまで、会社の健康診断で腎臓を見る項目は、実質的に「尿たんぱく」だけでした。そこに、来年4月から「血清クレアチニン検査」が法定項目として加わります。40歳以上は原則として全員がこの検査を受けることになります(40歳未満は医師の判断で省略可)。

クレアチニンを項目に加えるかどうかは、以前から検討されてきました。しかし2016年の前回の見直しでは、「尿たんぱくで見つからない腎臓病も、高血圧や糖尿病のチェックで拾えるだろう」と考えられ、クレアチニンは「医師が必要と認めた場合」の項目にとどまったという経緯があります。

ところが、この前提が崩れました。日本腎臓学会が約14万人の健診データを分析したところ、腎臓病と判定された人の約3割は、尿たんぱく・高血圧・糖尿病のどれにも引っかかっていなかったのです。働く世代の腎臓病の約半数は、尿検査だけでは見つけられないという推計もあります。こうしたデータを受けて厚生労働省の検討会が追加を提言し、法定項目になることが決まりました。

【図表】尿検査だけでは、3人に1人が見逃される

背景には、働き方との関係もあります。韓国の約9万8000人を追跡した21年の研究では「長時間労働で腎臓病の発症リスクが約2倍になる」とも報告されており、職場の健診で把握する意義が認められたのです。

クレアチニンは「いま」 尿検査は「未来」を見る

腎臓病は、最新の推計では成人の5人に1人(約2000万人。日本腎臓学会『CKD診療ガイド2024』)といわれる国民病です。それなのに「無症状」が一番の症状と言えるほど気づきにくいのが特徴です。

検査項目にクレアチニンが加わることによる追加コストは、1人あたり60円程度です。わずかな負担で、働く世代が毎年、自分の腎臓の処理能力を数字で確かめられるようになることには大きな意味があると考えています。

クレアチニンとは、筋肉を動かしたときに出る老廃物で、血液に乗って腎臓に運ばれ、ろ過されて尿に出ていきます。腎臓の働きが落ちると、ろ過しきれなかった分が血液中に溜まり、数値が上がります。つまり、血中のクレアチニン値を測れば、腎臓がどの程度機能しているか見当がつくわけです。

ただし、クレアチニン値はそのままでは読みにくいため(詳しくは〈クレアチニンより「eGFR」に注目せよ〉の項参照)、年齢と性別を加味した特別な計算式に入れて「eGFR」という値に換算します。これは、若い人の健康な腎臓を100としたときに、あなたの腎臓が「いま」何%ぐらい働いているかを示す数値だと考えてください。eGFRが60を下回る状態が続くと腎臓病、10を切ると人工透析が必要になる、というのが目安です。

これに対して、尿たんぱくは腎臓が「将来」悪くなるかどうかを知らせるサインです。見ているものが違うので、eGFRは低いのに尿たんぱくは正常という人もいます。

腎臓病には、大きく分けて2つのタイプがあります。一つは、急速に腎機能が悪くなるタイプです。こちらは尿たんぱくが出るのが一般的で、従来の健診の尿検査でも見つけることができました。

(構成=本誌編集部)