健診での数値が「基準範囲(正常)」だからといって、安心してはいけない。糖化ストレス研究の第一人者が、糖尿病への進行を防ぐ習慣を解説する――。

HbA1c5.6は生活習慣を見直す警告

一般的な健康診断で調べる血糖値は、「空腹時血糖値」と「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の2つです。前者の基準値は70〜99mg/dLとされ、これより高ければ問題ですが、あくまで検査時点の値にすぎません。留意すべきは後者です。過去1〜2カ月の平均的な血糖状態を示す数値なので、健康状態をより正確に教えてくれるからです。

HbA1cが6.5%を超えれば、糖尿病と診断されます。そのため、結果が5.8%とか6.2%と記載されているのを見て、「自分は大丈夫」と安心する人は多いでしょう。

しかし日本人間ドック・予防医療学会などの基準では、5.5%以下が基準範囲(正常)です。5.6〜6.4%は「要再検査・生活改善」とされ、「生活習慣を見直しなさい」という警戒アラートです。

そこで、この結果を受けて医療機関を受診すると、「まだ治療の段階ではないので、食事と運動に気をつけてください」と、ごく簡単な指導を受けて終わる場合が少なくありません。

予防医学を長年研究してきた私の立場から言えば、現在の医療現場や健診のシステムには大きな穴があると言わざるをえません。なぜならHbA1cが6.5%になった瞬間に、正常だった体が糖尿病を突然発症するわけではありません。生活を改善せずにそのまま過ごしていると、糖尿病に至る健康の悪化は、静かに進行しているのです。

そうしてついに6.5%を超えて糖尿病のラベルを貼られたなら、途端にインスリン注射などの長くてつらい投薬治療が始まることが少なくありません。この事態を阻止するためには、5.6〜6.4%の段階で、生活習慣の改善を始める以外にありません。

そもそも血糖値とは、血液中のグルコース(ブドウ糖)の濃度のこと。グルコースは体にとって欠かせないエネルギー源で、食事によって体内に吸収され、血液を通じて全身に運ばれます。

食事をして血糖値が上がると、膵臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。インスリンにはグルコースを血中から細胞内に取り込ませる働きがあるので、細胞がグルコースをエネルギーとして活用できるのです。その結果、血中のグルコースは減って、血糖値が下がります。

ところが、食後に血糖値が急激に上昇すると、インスリンが遅れて、しかも多量に分泌され、血糖値は急降下します。この現象を「血糖値スパイク(食後高血糖)」と呼びます。スパイクとは「とげ」のこと。血糖値のグラフが、とげのような鋭い形になるからです。空腹時の血糖値が90〜99mg/dLの正常な人でも、食後には140mg/dL以上へ上がる場合があります。

血糖値スパイクは、糖質や脂質が多い食事内容、ドカ食いや早食いなどの食べ方が原因で発生します。これが起こると、細胞から有害な活性酸素が発生して血管の動脈硬化が進行。その結果、血管の壁が壊れて切れたり、詰まりやすくなったりして、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。

(構成=石井謙一郎)