健康のために続けてきたことが、むしろ改善の邪魔をすることがある。努力しているのに下がらない4人の診察で、医師は何を見つけ、何を変えたのか――。
【1】朝のジョギングをやめたら、糖尿病の数値が改善した

運動すれば血糖値が下がるというわけでもない

定期的に運動し、食事にも気を配っている。それなのに、健康診断の数値が改善しない、というケースが一定数ある。努力が足りないのだろうかと、運動量を増やしたくなる人もいるだろう――。

これまで多くの生活習慣病患者と向き合ってきた矢野宏行医師は「必要なのは、努力の量より、その中身を確かめることかもしれない」と語る。

会社経営者のAさん(50歳)も健康意識が高い人だった。毎年、人間ドックを受け、その数値を自分で検討し、食事では炭水化物を控え、朝は起きてすぐジョギングをするなどの対策を重ねていた。見た目も中肉中背で、肥満体形ではない。

「ところが、血糖の状態を示すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、8%を超える状態が6年も続いていたのです(糖尿病の診断ではHbA1c6.5%以上がひとつの基準)。その間、病院にはかからず、自分で生活を改善しようとしていたのですが、数値は下がらない。そんな経過をたどり、56歳のとき、私のクリニックを受診しました」(矢野医師、以下同)

HbA1cは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンに、ブドウ糖が結びついた割合だ。過去約1〜2カ月の血糖の状態を反映するため、日ごとの血糖値を示すものではない。「フリースタイルリブレというセンサーを使って、まずは、Aさんの1日の血糖値の動きを観察してみることにしました。すると1日を通して高血糖状態が続いていたことがわかりました」

矢野医師が使ったリブレセンサーは、腕などに装着すると、間質液中のグルコースを測り、血糖値の変動を継続的に把握できる。採血した一瞬の値だけではわからない、運動や食事、睡眠に伴う変化を追えるのが特徴だ。

「センサーで計測したAさんの血糖値は、朝起きた時点ですでに156mg/dLありました(基準値/空腹時99mg/dL以下)。それが、ジョギングの後には200mg/dL近くまで上がっていた。そして、すぐに朝食を摂ることで、そこからさらに上昇していたのです」

運動すれば血糖値が下がるはず。その思いとは逆の変化が起きていたわけだ。

【図表】治療前のAさん

「おそらく、朝のホルモンの働きと、ジョギングによる体への負荷が重なって起きた現象でしょう。朝方には、体を活動させるホルモンの作用で血糖値が上がることがあります。通常はインスリンがその上昇を抑えるのですが、その分泌や働きが十分でなければ、血糖値の上昇を抑え切れない場合があります。Aさんの場合、さらに、強い運動の負荷によって血糖値を上げるホルモンが分泌され、一時的に数値が上がっていたのです」

ジョギング後に上がった血糖値が、朝食を摂ることでさらに上がる。これが下がり切らないうちに、また昼食を摂るため、1日を通して血糖値が高い。この状態が続くことで、HbA1cが下がらない。

(文=末並俊司 イラストレーション=伊野孝行)