英語ができる「だけ」ではもはや有利にならない
スマホ一台あれば、誰でも精度の高い翻訳ができる時代になりました。以前は高度なスキルを持った人間が行っていた翻訳の仕事も、AIで高速化・自動化されていくでしょう。このことに対してネガティブな意見を言う専門家もいますが、私はこの画期的な進歩にワクワクしています。
これまでは、英語ができるだけで情報発信力に大きな差が生まれ、英語が得意な人材はビジネスにおいても圧倒的に得をしていました。しかし、AIの登場によって、その格差は解消されつつあります。しっかりとした論理と思考力を持っていれば、英語力が劣っていても、世界中に質の高いメッセージを発信できる時代になったのです。
ChatGPTなどの大規模言語モデル(以下、生成AI全般を便宜上「チャットGPT」と総称する)は、新次元の「対話型翻訳ツール」と位置づけられています。近年はDeepLなどの機械翻訳の性能も高まってきていますが、仕事で使う際は圧倒的にチャットGPTのほうがおすすめです。
大規模言語モデルは、従来の機械翻訳の技術を内包しています。コンピュータが翻訳した文章といえば「不自然な直訳」というイメージがあるかもしれませんが、ニューラル機械翻訳という革命的な技術により、2016年ごろから機械翻訳の性能は劇的に向上しました。そこで使われていた「トランスフォーマー」というエンジン(仕組み)に膨大なデータを学習させた結果、大規模言語モデルが生まれたのです。
DeepLやグーグル翻訳などの従来の機械翻訳は、基本的に「原文を入れると訳文が出てくる」という一対一の処理を行います。一方で、チャットGPTなどの大規模言語モデルでは、ユーザーが文脈や背景情報を説明することで、それを反映した柔軟な翻訳を行ってくれます。チャットGPTは単なる翻訳機ではなく、コミュニケーションのパートナーなのです。
日本語の文章を英語に翻訳させると、AIは流暢な英文を出してくれますが、それが本当に使えるかどうか、最終的に判断するのはあなた自身です。訳文を評価する際には、言葉を「命題」と「モダリティ」の2つの要素に分けて考えることをおすすめします。
「命題」とは、その文が伝えるべき事実やメッセージです。一方の「モダリティ」は、その事実を“どう伝えるか”という部分。話し手の態度や感情、相手への気遣いが反映されたものです。
AIを使った場合、「命題」の翻訳精度は非常に高く、エラーが起こる確率はおよそ10%以下といわれています。ただし、そのわずかな確率で起こるミスの内容によっては、大きな事故になってしまうこともあります。重要な事実関係や数字、固有名詞のチェックは人間が行わなければなりません。
日常的なビジネスメールの場合は、「モダリティ」のほうが重要になることもあるでしょう。たとえば、納期の遅れを伝えるメールで、事実は正しく伝わったとしても、偉そうな言い方だったらどうなるでしょうか。失礼な人だと思われ、取引が台無しになる恐れがあります。逆に、納品日時などの「命題」に多少のミスがあっても、丁寧に謝るメールであれば、間違いを注意されるだけで済むかもしれません。これまでの機械翻訳は、この「モダリティ」の調整が苦手でした。しかし、大規模言語モデルはプロンプト(指示を出す言葉)次第で、モダリティを自在に操り、相手の心に刺さる適切な表現をつくり出せます。
AIの翻訳能力を最大限に引き出せるかどうかは、あなたのプロンプトにかかっています。単に「これを英語に翻訳して」と指示するだけでは、AIは従来の機械翻訳とさほど変わらない、平均的で無難な回答しか出してきません。いい翻訳結果を得るためには、コミュニケーションの目的や、対象となる読者の情報をインプットする必要があります。
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