やりたくもない仕事をやり続けた先には何が待ち受けるか。イタリア文学『タタール人の砂漠』は、何も起こらない砦に配属された将校が、敵が現れて手柄をあげる日を何十年も待ち続けたまま40代を迎え、背後で門が閉まり引き返せなくなることを描いている。文筆家の堀越英美さんが書いた『あなたのモヤモヤに効く世界文学』(筑摩書房)より、紹介しよう――。
パソコンを操作する女性
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人生のタイムリミットを思い知る中年期

<お悩み>
仕事にやりがいがない

仕事にやりがいがありません。ルーティンワークで安定した収入が得られる居心地の良さからずるずる勤め続けたものの、このまま定年までやりがいを経験せずに老いていくのか、という焦燥感があります。

中年、それは人生のタイムリミットを思い知らされる時期なのかもしれません。

若いころはつらいことがあっても、この先生きていれば「まだ見ぬいいこと」があるだろうという漠然とした期待がありました。けれど日々ポンコツになりゆく身体は、残り時間の短さを容赦なく私たちに告げてきます。

すぐに息切れする、集中力が続かない、健康診断でAが減っていく……。

「まだ見ぬいいこと」など訪れぬまま、人生が終わってしまうのだろうか。そんな焦りが芽生えてくるのです。

『タタール人の砂漠』は、何も起こらない砦に配属された将校が、敵が現れて手柄をあげる日を何十年も待ち続ける物語です。

主人公は、士官学校を卒業し、新卒で辺境の砂漠の砦に配属された将校ジョヴァンニ・ドローゴ。

砦に向かう道中で出会ったベテラン大尉によれば、砦は通常2年の任期が経歴上4年に換算されるくらい、人気のない赴任地であるようです。

というのも、砦は今まで何も起きたことがなく、一度も役に立ったことがないからです。

その国の人々は、誰も越えたことのない砂漠の向こうにタタール人がいると信じていて、彼らが攻めてくるかもしれないという想定のもと、監視のために砦を設置したのでした。

これまでの町暮らしとはあまりにかけ離れた環境に不安を感じたドローゴは、さっそく引き返したくなります。

しかし上司に、任地の変更願いは大佐の心証を悪くすること、4カ月我慢すれば穏便に辞められることをほのめかされ、おとなしく任務に就くことになりました。

「ここをただちに出て行くことは自分がだめな男だということをさらけだすのと同じではないか」という自尊心が、不安に蓋をしたのです。