規則まみれの職務に22年間勤務し続けて
将校の仕事は、自分の受け持ちの城壁上を歩いて回り、見張りの歩哨たちがサボっていないかを監督すること。
すこぶる単調な作業ですが、規則は厳しく、マントの襟の高さまで決められています。
さらに上層部がセキュリティのために作った合言葉の運用ルールが複雑すぎるため、勤務の交代時にタイムロスが生じます。現場の声を聞かずにどんどん膨れ上がる業務手順、職場あるあるです。
仕事にやりがいがない。いくら待っても敵は攻めてこない。誰も業績を上げられない。不毛。
ドローゴは22年間この砦に勤務し続けた部下の訴えを聞いて、「この兵士にいったいなにが残ったのだろう?」と暗い気持ちになります。砦の外の楽しい世界から切り離され、規則まみれの砦だけが全世界という人生……。
やっぱりすぐにここから立ち去るべきだった。そう急き立てられつつも、母に手紙を書いているうちに母の悲しむ顔が浮かび、思いとどまります。
それが、彼にとっては取り返しのつかない「時の遁走」の始まりでした。
待ち続けたことを無駄にしたくない心理
4カ月後、転属できるお膳立てをしてもらったにもかかわらず、ドローゴは残りたいと希望を出します。4カ月は、仕事になじむには充分な長さでした。
耐えがたく思われた厳格なルールや勤務体制も、慣れてしまえばさほどつらいとは思わなくなります。
退屈な仕事も習熟してうまくやれるようになれば、それなりの喜びがあるものです。仕事ぶりを認めてくれる職場なら、愛着だってわくでしょう。
少し待てば本当に敵が現れて、手柄を立てられるかもしれない。潮時だと判断してから砦を出ても、若い自分には時間がたっぷりあるのだし、人生に支障はないだろう、そうドローゴは考えたのです。
青春はもうしぼみかけているのに、彼には人生は長々と続く、
尽きせぬ幻影のように見えた。
ドローゴは時というものを知らなかった。
その後もドローゴには、町に引き返すチャンスが何度もありました。
町で彼を待っている女性もいました。しかしそのたびに言い訳を思いつき、砦にとどまり続けます。
砦には、そんな兵士たちが何人もいました。彼らはいつか敵が攻めてきて、一世一代の大活躍ができることを期待して、空しく人生の盛りを浪費しているのでした。
そこにあるのは、待ち続けたことを無駄にしたくないという気持ちかもしれません。
あるいは退屈な場所に適応した結果、新しい環境に飛び出すのがおっくうになっているのかもしれません。
もしかしたら、環境を変えたところでうだつのあがらない人生には変わりないとあきらめているのかもしれません。
ともあれ彼らは勤務を楽しんでいるようには思われないのに、愚痴りながらも砦から離れられないでいるのです。

