トップが動かないことが何十人もの休息になる

間もなく夏休みシーズンだ。読者の皆さまも、旅行やレジャーなどのイベントを楽しみにしているかもしれない。

こうした大型連休のとき、たまにニュースとなるのが、首相のホテル泊だ。首相が自宅に帰らず、公邸にも留まらず、わざわざ都心のホテルに泊まって休日を過ごす、という話だ。

たとえば石破茂前首相は、昨年のゴールデンウイーク後半に公邸から都内のホテルへ移り、数日間を読書などで静かに過ごした。実際に石破前首相がどの部屋に泊まったのかはわからないが、セキュリティ面を考えればスイートルームに泊まった可能性はかなり高い。

首相が祝日をホテルで過ごすと、「庶民感覚とかけ離れている」と批判されることが多い。石破前首相の場合、泊まった部屋が1泊20万円と報道されたことも、反感を買った理由のひとつだと思う。たしかに、批判する側の気持ちもわからなくはない。物価高で欲しいものや、行きたかった旅行を諦めた人も多いだろう。そんなときに、首相が都内の高級ホテルで悠々と読書している、と聞けば、面白くないのも人情だろう。

私はこれに慣れていたので何とも思わなかったのだが、「休日を都内のホテルで過ごす」というのは、よく考えてみると理解しにくい。休むだけなら自宅でくつろげばいいし、時間があるのなら地元に帰って羽を伸ばしてもいい。なぜ、わざわざお金のかかるホテルで休日を過ごすのか。

私に言わせれば、これはむしろ、よく考え抜かれた振る舞いなのである。今回は、この一見不可解な「首相のホテル泊」の秘密を、読者に解説したい。

私が首席秘書官として小泉純一郎首相に仕えていたころも、長い休みの過ごし方には頭を悩ませた。当初は、箱根のような行楽地でゆっくりしてもらう案もあった。だが、これはすぐに引っ込めた。首相が遠出をすれば、警備にあたる警察官や段取りをするスタッフが慣れない土地に大挙して張り付くことになる。事前の現地調査も必要になるし、関係各所との連携も必要になる。スタッフにとっては休みどころか、過酷な出張になってしまう。そこで、都心のホテルに腰を落ち着けてもらう、という形に決まったのである。

もちろん、休みになると地元へ帰ったり、別荘やゴルフ場で羽を伸ばす首相もいる。だが、そのたびに数十人規模の警備が敷かれ、地元の警察や住民にまで負担が及ぶうえに、その段取りを組むことは「追加の仕事」になってしまう。だから、なかなか調整が難しいのだろう。

週末に秘書官らとゴルフを楽しむ安倍晋三元首相(写真中央)
動かない仕事
2018年、週末に秘書官らとゴルフを楽しむ安倍晋三元首相(写真中央)。このような「休養」と、ホテル泊の「休養」は意味が全く異なると飯島氏は指摘する。首相が休日にホテルへこもるのは贅沢ではなく、周りを休ませ、有事に備えるための「仕事に近い」という。

つまり、首相が都内のホテルで休むのはスタッフたちを休ませるという理由が最も大きい。首相が自宅と官邸を行き来したり、あちこち出歩いたりすれば、そのたびに秘書官も、運転手も、警備も、報道対応の職員も、総出で動かねばならない。ところが、首相がホテルでゆっくりしていてくれると、最小限のスタッフ以外は休みを取ることができる。ホテルにはホテルのセキュリティがあるから、普段よりも対応に追われるスタッフも少ない。

トップが動かないことが、そのまま何十人もの休息になるのだ。連休返上で働きづめの官邸にとって、これは何よりの「首相の気配り」なのである。

(写真=時事通信フォト)

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