父殺しのギリシャ悲劇 どうすれば避けられたか

思いがけない出来事が起こると、私たちは原因を究明したくなります。それが悪い状況であるほど、「なぜこんなことになってしまったのか」という嘆きや焦りから、必死になってその理由を探ろうとするものです。

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もちろん原因を特定し、問題を解決できれば、それがベストでしょう。例えば家の中でコバエが湧いたら、発生源を突き止めて処置することが必要です。

私はまさにそのような状況に直面したことがあります。一体どうしたことかと調べると、すき焼きのタレが入った容器に数匹のコバエが集まっているのを発見しました。それを見た私は「コバエはこのタレが好きなのか。だったら容器の蓋を開けておけば、コバエが中にどんどん入って簡単に退治できるぞ」とひらめきました。おまけに「このタレを使ったコバエ取りを発明すれば、大儲けできるんじゃないか」とまで考えました。

しかし、よく観察すると、コバエはタレに寄ってきたのではなくタレから湧いていたのです。容器を処分したらコバエはいなくなりました。当初の私はそもそもの発想から間違っていたわけで、人間は欲を出すと本当の原因を見誤るのだと学びました。

このように、原因を正しく特定することが良い結果につながる場合もありますが、すべてがそうとは限りません。むしろ原因を追究した結果、思わぬ悲劇を招くこともありえます。

そんな物語を描いたのが、古代ギリシャの詩人ソポクレスによって書かれた戯曲『オイディプス王』です。オイディプスはギリシャ神話の登場人物で、フロイトが提唱した「エディプスコンプレックス」の語源にもなっているので、皆さんもあらすじはご存じかと思います。実の父親を殺し、産みの母親を妻にして子どもまでもうけた男が、真実を知って自らの両目を突き刺す。これがオイディプス王が辿った悲惨な運命ですが、今あらためて考えたいのは「彼は真相を明らかにすべきだったのか?」ということです。

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そもそもの始まりは、オイディプス王が治めるテバイの国で、疫病や不作などの禍わざわいが続いたことでした。これほど悪い状況に直面すれば、一国の主として原因を究明したくなります。

そこでオイディプス王がデルポイへ行き神託を求めると、〈この国には先王ライオスを殺害した者が潜んでいる。国を救うには、その穢けがれをただちに追放せよ〉とのお告げを受けます。しかしライオス亡き後にこの地へ来たオイディプス王は、殺害事件の詳細を知りません。そこで予言者テイレシアスを招き、殺害者は誰かと尋ねました。

ところがテイレシアスは問いにはっきりと答えようとせず、「あなた自身こそあなたの禍いのもとなのだ」といった曖昧な言葉を繰り返します。苛立ったオイディプス王が、自分はこの国に禍いではなく、栄光をもたらす存在だと言い返すと、テイレシアスはこう告げます。

「それには、いつも運が身方した、その同じ運があなたを破滅に導くのだ」

(構成=塚田有香 イラストレーション=米山夏子)

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