カミュの『異邦人』は嘘がつけない男の末路

世の中には「嘘がつけない人」が存在します。本当のことを言えば、自分が不利になるかもしれないが、どうしても嘘はつけない。皆さんの中にも、そんな正直者がいるかもしれません。

その結果、実際に不利益を被った経験がある人もいるのではないでしょうか。これを世間では「正直者が馬鹿を見る」と表現します。私たちは子どもの頃から「嘘をついてはいけません」と教えられますが、正直さを貫けば、かえって酷い目に遭うこともあります。

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20世紀のフランス文学を代表する作家カミュの『異邦人』は、嘘がつけない男の末路を描いた小説です。

「きょう、ママンが死んだ」

この有名な一節で物語が幕を明けると、その後は主人公のムルソーがいかに正直者であるかが、端々で描写されます。

例えば母の埋葬の場面では、柩を閉める前にお別れをするかと聞かれて、彼は「いいえ」とだけ答えます。世間一般の感覚では、愛する家族が亡くなったのに冷たすぎると思うのでしょうが、ムルソーは単に遺体を見る気がしなかったから断っただけで、そのときの気持ちを正直に伝えたまでです。

さらに母親の死の翌日には、会社を休んで海水浴に行き、そこで偶然昔の同僚であるマリイと再会して、夜を共にします。これも世間から見れば〈身内が亡くなったばかりなのに不謹慎だ〉となるのかもしれませんが、ムルソーは泳ぎたいから泳ぎに行き、女性と遊びたかったから遊んだだけ。自分に正直に生きているだけなのです。

マリイとはその後も関係が続き、彼女から「自分と結婚したいか」と尋ねられたムルソーは「どっちでもいいことだが、マリイの方でそう望むのなら、結婚してもいい」と答えます。さらに彼女が「別の女が、同じような申し込みをして来たら、あなたは承諾するか」と聞くと、ムルソーは「もちろんさ」と即答します。女性から要求されれば結婚するが、相手を愛しているかどうかを考えることに意味はない、というのが彼の主張です。

ここまで正直すぎると、もはや完全な変人ですが、別に悪いことをしているわけではありません。しかし物語の中盤で、ムルソーが殺人事件を起こしてからは、彼の正直さが自らを追い詰めていくことになります。

事件の発端は、ムルソーが知人のトラブルに巻き込まれたことでした。彼自身に被害者と因縁があったわけではなく、凶器のピストルも直前に知人から預かったもので、殺人に計画性があったわけでもありません。

(構成=塚田有香 イラストレーション=米山夏子)

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