いまソニーが再び輝いている。2026年3月期、ソニーグループの営業利益は1兆4475億円と過去最高益を更新。その7割は、ゲーム・音楽・映画のエンタメ3事業だ。電機メーカーだったソニーは、なぜここまで変われたのか。転換の種を蒔いたのは、1995年から10年間トップを務めた出井伸之だ。「インターネットは隕石だ。このままだとソニーは恐竜のように滅びるぞ」と警鐘を鳴らし、パソコン「VAIO」やゲーム機「プレイステーション」を発売。だが当時は「ソニーを壊した経営者」とOBらから批判を受け、最後は社外取締役から勇退を勧告された。
「出井さんは“世界最悪の経営者”とまで評され、社内でも抵抗を受けていた。けれど実際に会ってみると、薔薇のような華がある人で、思考も柔軟。なぜそこまで貶められてきたのか疑問に思った」
出井のサラリーマン人生は、報われない日々の連続だった。パリでは上司も部下もいない。孤軍奮闘で、5年かけて現地法人を立ち上げた。それなのに、帰国後待っていたのは物流センターへの配置転換。さらには、後の社長・大賀典雄への発言が逆鱗に触れ、役職を解かれる。それでも出井は異動先で得た知識を掛け算し、未来を読む力に変えていった。やがて文系でありながら、自らの意思で理系の牙城に飛び込んでいくようになる。
「出井さんはその場所で輝くこと、個として生きることを貫いていた。子会社でも役職がなくても関係ない。小さな勇気で飛び越えた先には可能性がある。出井さんはそれを自分の体験から信じていた」
95年、出井は14人抜きで社長に就任する。CDでレコードを駆逐し、デジタルの破壊力を知る大賀が、次なる破壊者として出井を選んだ。自分を左遷させ、クビ宣告までした大賀が、まさか指名するとは思わなかった。退任時にはエンタメのマネタイズを託し、外国人のハワード・ストリンガーを後継に据えた。盛田昭夫、大賀、出井と続く「異端の系譜」に児玉は着目する。
AIが人間の知性を凌駕しようとする時代に、出井ならば何を語るだろうか。
「テクノロジーを超える人間の可能性を信じろと言ったはず。AIやロボットが社会を変えるほど、彼らの届かない領域が逆にクローズアップされる。ひるむこともなく、人間を全うしなさいと」
組織の中で何度打ちのめされても、小さな勇気で世界は変わる。それは、いまを生きる私たちの希望でもある。
「若い人に、ぜひ読んでほしい。出井さんが持った勇気のかけらでもいいから、受け取ってほしい」(本文敬称略)
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年7月3日号)の一部を再編集したものです。
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