師との約束を果たした
幹部従業員協同組合――。聞き慣れない言葉だ。だが、この一語にこそ、日本企業が抱える問題と『日本買収』の核心が凝縮されている。
「この言葉は私の造語です。戦後の日本企業では内部でのし上がった幹部たちから、社長が選ばれてきました。そして、その社長が後継者を指名する……。株主の議決権を形式にする「仲間」の強い絆。そうした社長人事が何十年も繰り返されてきました。多くの企業を見てきた私の実感を幹部従業員協同組合と表現したのです」
こう語る著者の牛島氏は、M&Aやコーポレートガバナンスなどを数多く手がけてきた団塊世代の弁護士である。
1949年生まれ。東京大学法学部卒。東京地検検事を経て弁護士に。M&Aやコーポレートガバナンスで知られる牛島総合法律事務所代表。1997年『株主総会』で作家デビュー、企業小説やエッセイを多数発表。
牛島氏が第二の敗戦と位置づける1985年のプラザ合意に由来するバブルとその崩壊。第三の敗戦の嚆矢であるカナダ企業からのセブン&アイ・ホールディングスの買収提案……。牛島氏が本書で辿る戦後経済史には、同時代を生きた団塊世代ならではのリアリティーが息づいている。
牛島氏が、『株主総会』で作家デビューしたのは47歳のときだった。
「作家への憧れの原点が、中学・高校時代に読んだ石原さんの『太陽の季節』。その憧れが、弁護士になっても消えなかったのです」
石原さんとは牛島氏が“我が師”と呼ぶ石原慎太郎氏。
「この世には男と女しかいないんだ。みんなが読みたくなる恋愛小説を書きなさいよ」
牛島氏は師にいつもそう励まされた。師の教えは、本書のもう一つの軸につながる。戦後経済史を縦軸に、伴侶を亡くした三津野慎一と西野礼子が半世紀を超えて再会し、恋に落ちる物語が綴られる。
「『「私」という男の生涯』には、石原さんが幼い頃に憧れた少女が登場します。どんなに年を取っても、どれほど功成り名遂げても、男性は最後には少年時代にタイムスリップしてしまう。それが晩年に燃え上がる。だからこそ、魂を虜にしてしまうのです」
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