進化を拒絶した結果、3億5000万年もの時を生き延びてこられた動物がいる。

太古の昔に絶滅したと思われていたシーラカンスは、1938年に南アフリカで発見されて以降、世界中の研究者たちを魅了し続けている。昨年都内で開かれた第4回国際シーラカンスシンポジウムに出席した高野さんも、その謎に包まれた生態に「沼った」。

高野 真吾(たかの・しんご)
高野 真吾(たかの・しんご)
ジャーナリスト。1976年、埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。98年朝日新聞社入社。社会、経済、国際分野を幅広く取材し、ネットニュースでも発信。著書に『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)など。

「シーラカンスの生息域は水深200メートル以上の深海が中心です。体には頑丈なヒレがありますが、なぜ深海に潜るようになったのかは未解明。人間より泳ぎが遅く、脳味噌は小さく、体内で赤ちゃんを5年間も育てます。こんな生き物がなぜ絶滅しなかったのか、興味が湧きました」

大学在学中は潜水クラブに所属し、沖縄や伊豆、小笠原で約200本のダイビングをこなした。自分で撮った水中写真をコンクールに応募したこともある。シーラカンスとの出会いは、青春時代のワクワクを蘇らせるものだった。

本書では、81年にアフリカ・コモロ諸島でシーラカンスの捕獲に成功した日本の学術調査隊メンバーに当時の奮闘を聞いている。現地政府との8年におよぶ交渉の末に約1カ月の滞在が許されたが、空振り続き。撤収の準備をしていた最終日に、地元の漁師が夜通し格闘して見事釣り上げた。同行したカメラマン(86歳)の「怪物」「エメラルドの目は、宇宙の天体と結びついているような気がした」という述懐が印象的だ。

ドラマはここで終わらない。今度はシーラカンスを日本に持ち帰る途中のパリでフランス政府からの“妨害”に遭うのだが、詳細はぜひ本書で確かめてほしい。調査隊が国家レベルの争奪戦に勝利しなければ、日本人がその姿を目にすることはできなかった。

高野さん自身も昨年チームに参加し、東南アジアまでシーラカンス探索に出たが、研究目的ではない。理由は「ただ見てみたいだけ。生産性はないです」。

『シーラカンスに会いに行く』ポプラ社/2000円+税 ※監修/鈴木直樹、沼津港深海水族館著者インタビュー
『シーラカンスに会いに行く』ポプラ社/2000円+税 ※監修/鈴木直樹、沼津港深海水族館著者インタビュー

「現代では、陸も宇宙も仕組みがほぼ解明されています。しかし、深海だけは人類がたどり着けていない『最後の謎』なんです。これほど科学が発達しても、わかってないことがまだ世の中にあるなんておもしろいじゃないですか」

結果や成功をつねに求められる人類にとって、シーラカンスの生き様はどこか羨ましい。

「人間も疲れたら『進化しない』ことを選択してもいいと思います」。理屈を超越した生存戦略のヒントが、本書にはある。

(インタビュー・文=内藤 慧(本誌編集部) 撮影=西田香織)

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