300億円――都心に立つタワマン最上階の額だ。一体、誰が買うのか。吉松こころさんが取材を続ける原動力は、誰もが抱く疑問だった。
「『外国人が不動産を買い漁っている』という話は報道で知っていましたが、どこの国の、どんな人が買っているのか見えなかった。不動産にかかわってきたからこそ、知りたかったのです」
東京、ニセコ、熊本、香港、ロンドン……。本書は、不動産バブルの現場を歩き、誰が、どんな情報や資金をもとに不動産を売買しているのかを追うルポルタージュだ。
中国人富裕層が金に物を言わせて日本を買う。そんなイメージが独り歩きしているが、実際はどうか。
「香港の民主化デモのあと、コロナ禍で完全ロックダウンがありました。人権を無視する中国政府から逃れて来日する人は少なくありません」
上海の不動産業者の話が想像を超える現実を突きつける。中国人顧客は日本のマンションを買うかどうかという話をしない。買うのが当たり前だからだ。話題になるのは、日本の教育や医療だという。
吉松さんが戸惑ったのは、交わされる“言葉”だ。不動産取材歴23年を誇る彼女でさえ、業者やオーナーが共有する前提がわからなかった。
「賃貸の取材が多かった私は2000万円、3000万円と聞き、安いと感じました。でも、それは一部屋ではなく、一坪の値段だったのです」
価格が高騰し続ける一方で、大多数の日本人は蚊帳の外だ。そんな現実に、吉松さんは思う。私たちは一つの産業として、不動産業をもっと学ぶべきなのではないか、と。
なぜ、ふつうの人が家を買えないのか。素朴な疑問が出発点となった取材が、日本社会や産業構造の歪みを浮かび上がらせる。吉松さんは言う。
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