「再び取材を始めたきっかけは、『積水ハウス事件』で服役中の主犯格、カミンスカス操みさおから届いた一通の手紙でした。そこには『私は無罪です』と書かれていました」

本作は、2018年に発刊された『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』の続編である。地面師とは、偽造書類や“なりすまし”で土地の所有権を騙し取る詐欺師のこと。

森 功
森 功(もり・いさお)●ノンフィクション作家。岡山大学文学部卒業後、「週刊新潮」編集部などを経て独立。2018年に『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞

なぜ日本屈指のデベロッパーが騙されたのか。55億5000万円はどこへ消えたのか。前作でも解明しきれなかった問いが宙に浮いたままだった。意を決して返事を出すと「協力は惜しみません」との返信が届き、往復50通を超える文通取材が始まった。

詐欺師との手紙のやりとりは、一筋縄ではいかない。

「彼らは9割方は本当のことを言うんです。でも1割は隠す。そこが詐欺師のテクニックで、だからこそ信じ込ませることができる」と森氏は言う。その9割の話を拾い出し、他の関係者への取材で裏を取る。地道な作業の積み重ねが、やがて「無罪」を訴えるカミンスカスの言葉を少しずつ崩し始めていく。「週刊新潮」編集部で経験を積み、政財界の暗部を長年にわたり追いかけてきた森氏はこう語る。

「信頼関係があるから喋ってくれるなんていうのは幻想で、喋らざるをえない状況をつくることが大事なんです。ただし、大半はうまくいきません。たまにうまくいったときに記事になる」

その姿勢は、受刑者との文通でも変わらない。刑務所という壁の向こうから届く手紙を丹念に読み込み、矛盾を突き、周辺取材で検証する。

取材が深まるにつれ、森氏の視線は詐欺師たちだけでなく「騙された側」にも向かっていった。

書影
森功『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』講談社/1800円+税

「なぜ積水ハウスが騙されたのか、本当に騙されたのか、というのは誰もが抱く疑問です。でも誰も答えを出せていない」

事件の謎をさらに掘り下げるうちに、被害者のはずの積水ハウス側にも不自然な点が浮かび上がる。その背景には当時の社長と会長の権力争いがあったと森氏は見る。騙す側と騙される側、双方の暗部が絡み合ってこそ、この事件は成立していた。

( インタビュー・文=大島七々三 撮影=ミヤジシンゴ)

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