人の気配がない闇のなか、民家から電気の明かりが漏れている。それは、原発事故で被災した福島県・富岡町で、避難指示が解除された2022年のことだった。

闇夜に浮かぶ明かりを目にするたび、川内有緒さんの脳裏にこんな思いがよぎった。

川内 有緒
ノンフィクション作家。国連機関職員等を経て執筆の道へ。『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞を受賞。近年はドキュメンタリー映画の監督も務める。映画『ロッコク・キッチン』は2月より全国で順次公開中。

「『あのおうちでは、いま何を食べているのかな』『どんな料理を作っているんだろう』……。そんな疑問が頭から離れなくなってしまって。ロッコク沿いで暮らす人たちに食にまつわるエッセイを募集しようと思ったんです」

“ロッコク”とは、東京から千葉、茨城、福島を経て、仙台へと至る国道6号線の愛称だ。本書は、避難指示解除区域からよせられた文章を手がかりに住民を訪ね、手料理を囲む旅のエッセイである。

原発事故後、ロッコク沿いの広範囲に避難指示が出た。住民は、住み慣れた町を追われ、日本各地に散り散りとなった。川内さんは言う。

「帰還した人にも、新たに暮らしはじめた人にも、決断や覚悟があったはずなんです」

小学生のときに被災して大熊町を離れ、12年後に故郷に戻り、屋外で書店を開いた青年と食べるクラムチャウダー。浪江町に移住したインド人女性が振る舞うチャイ。南相馬市で原発事故の記憶を保存する「おれたちの伝承館」を運営する和歌山出身のカメラマンが作る餃子……。

読み進めると、食とはその人の半生や暮らし、あるいは町のありようを映し出す鏡のように思えてくる。

また、他県から移り住んだ人の多さにも驚かされた。

なぜ、ここで暮らしはじめたのか――川内さんの問いに「友達ができて」と答える若い人が少なくなかったという。

(インタビュー・文=山川 徹 撮影=小西範和)

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

【関連記事】
物語に癒されながら自分の"史観"を育てる歴史小説の読み方…佐藤賢一 『歴史小説のウソ』
WBCやMLBで日本人選手が活躍できる本当の理由…木村元彦『労組日本プロ野球選手会をつくった男たち』
忘れられない記憶に薄化粧を施した「おれ」の世界…筒井康隆『筒井康隆自伝』
「夢をかなえた先」に本当の幸せはあるのか。「選択」と「後悔」の物語…岡田真理『眩光の彼方』
「苦し紛れでした」失敗も軽やかに語る"獺祭じじい"挑戦の軌跡…桜井博志『獺祭 経営は八転び八起き』