介護施設の入居者で“寝たきり”の人は300万を超えるといわれる(厚生労働省)。緩和ケア医の萬田緑平さんは「実際に施設で寝たきりの高齢者を見ると衝撃を受ける。入居の際、胃ろうをすることが条件になる場合も少なくない」という――。

※本稿は、萬田緑平『死ぬまで生きる』(河出新書)の一部を再編集したものです。

約50万人が入れている「胃ろう」

高齢者医療のなかで問題になっているものの一つに「胃ろう」があります。胃ろうは口から食事がとれなくなった患者さんのおなかに穴を開けてチューブを入れ、胃に直接栄養を流し込む処置を言います。現在、40万〜50万人の方が利用し、毎年新たに約10万人の方が使い始めるといわれています。

胃ろうの何が問題になっているかはこれから詳しく説明しますが、僕はある病院に勤めていた頃、院内の胃ろう造設を一手に引き受けていたことがあります。胃ろうはその病院では内科医の仕事でしたが、当時内科医が不足していて「これ以上胃ろうを引き受けられない」と言われたので、じゃあ僕がやりますよと名乗り出たのです。

経鼻胃管
写真=iStock.com/Douglas Cliff
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栄養補給のための優れた技術

役割分担を明確にするため、胃ろうの造設に責任を持つのは僕たち外科医、導入への診断説明、その後の管理に責任を持つのは依頼した医師、というシステムにしました。依頼がくると予定が組まれ、僕ともう一人の外科医のどちらかに振り分けられます。当時の僕は、「外科医なのにわざわざ時間をつくっていいことをしている」というくらいの気持ちでした。なにしろ口から食べられなくなった患者さんが栄養をとる手段として、胃ろうほどすぐれたものはありません。病院や主治医たちからは、スムーズに胃ろうが造れるようになったとずいぶん感謝されました。

当時の僕は、胃ろうのすばらしさに何の疑問も抱いていませんでした。胃ろうの技術が確立されるまで、口から食べられなくなった患者さんには、血管に高カロリーの栄養を点滴する中心静脈栄養か、鼻からチューブを入れてそこから栄養をとる処置をされるのが一般的でした。しかし、点滴ではどうしても栄養素はかたよってしまいます。その点、胃ろうは口から食事をする状態に近く、必要な栄養素をほぼ完璧にとることができます。胃ろうをすると、患者さんの栄養状態はずいぶんよくなります。しかも中心静脈栄養よりも管理が簡単で、患者さんの身体に負担がかかりません。

一方で、胃ろうの処置を受ける患者さんは、脳出血や脳梗塞、誤嚥性ごえんせい肺炎のお年寄りがほとんどで、意識状態が悪いか、かなり認知症が進んだ方でした。胃ろうの造設時に本人とのコミュニケーションは取れない状態ですし、胃ろうを造ることに本人の同意を得ているわけでもありません。