疑問を持たず胃ろうを造っていた

僕は無抵抗か、抵抗する患者さんは眠らせて内視鏡を挿入していました。穴を開けるおなかには十分な量の局所麻酔をするのでそれほどの苦痛はなかったかと思いますが、いやがる患者さんや、何をされているのかわかっていない患者さんに、無理やり内視鏡を突っ込んでいたのです。今から考えてみれば拷問です。

予定していた処置が、患者さんの死亡によりキャンセルになることもよくありました。つまり、余命いくばくもない患者さんに対しても、主治医たちは胃ろうを造ろうとしていたわけです。

でも、当時はそんなことは考えませんでした。コミュニケーションが取れない患者さんの姿を見ると心にひっかかるものはありましたが、胃ろうを造り終えれば消えてしまう程度のものでした。

僕はあくまでも胃ろうを造るだけであり、胃ろうをつけられた患者さんがその後どうなったのかまでは知りませんし、知ろうともしませんでした。

もっと言うならば僕に胃ろうの依頼をした主治医たちだって、知らなかったと思います。胃ろう患者さんの多くは認知症や寝たきりの状態で退院していくので、その後の人生は、病院ではほとんど重要視されていなかったのです。

緩和ケア医の萬田緑平さん、群馬県前橋市の萬田診療所にて、2026年2月
撮影=プレジデントオンライン編集部
緩和ケア医の萬田緑平さん、群馬県前橋市の萬田診療所にて、2026年2月

認知症でも胃ろうで延命できるが…

僕が胃ろうの問題について真剣に考えはじめたのは、在宅緩和ケア医に転身して、老人介護施設をたずねたときです。胃ろう患者さんばかりが集められた部屋を初めて見たときは、あまりのショックに言葉が出ませんでした。

ベッドの上には寝たきりのお年寄りがたくさんいます。認知症が進んで意思表示もできず、目を開けたり閉じたりする程度で顔には表情がありません。声をかけても反応がありませんから、診察のために身体を横に向かせようと動かすと、ごろんと向こう側に転がっていきそうです。手足の関節が硬直して、まったく身体が動かせないのです。

昭和の終わり頃まではお年寄りの患者さんは病気が進行すると寝たきりが当たり前でしたが、その後はリハビリ技術の進歩により、寝たきりは少なくなってきました。しかし胃ろう造設によって口から食べられなくなっても長期に生き続けることが可能になってから、再び寝たきりの方が多くなってきたといいます。