※本稿は、酒井邦嘉『AI脳クライシス』(集英社インターナショナル)の一部を抜粋・再編集したものです。
脳に刻まれるのは「本の内容」だけではない
同じ読書でも紙の本と電子書籍では脳の働きがどのように違うのでしょうか。
表面的に見なせば、脳の働き自体はそれほど差がないと思われるでしょう。紙の本であれ電子書籍であれ、視覚野に入った情報が音声に変換され、言語野に送られるという過程は同じなのですから。
しかし、紙の本で読書をする場合、脳は単に書かれている内容だけを読み取っているわけではありません。
たとえば、本の厚みや手触り、紙質や装丁はどうか、本文のレイアウトはどうだったか、書体はどうか、この本のどこに書き込みをしたか、といった本の内容とは直接関係のないさまざまな情報を無意識のうちに記憶し処理しています。それらは、後で本の内容を思い出す時の手がかりとして、紙の本の方が電子書籍よりはるかに豊かな情報を脳に刻んでくれるのです。
記憶をたどりながらパラパラとページをめくって、「あの人物はこの場面で初めて登場した」とか、「その伏線となるエピソードはここにあった」と、必要な所がすぐ見つけられるのは、製本の成せる業です。
電子書籍でこれらの感覚が得られるかと言えば、きわめて難しいでしょう。
キーワード検索は便利だが…
まず電子書籍では本の厚さのような量的な手がかりが希薄です。
たとえば長編小説を読む場合、紙の本では視覚的・触覚的に全体のどのあたりを読んでいるかを把握しながら読むことができますが、電子書籍はスクロールバーの相対的な位置やページ数の表示が唯一の手がかりですから、後で必要な所にたどり着くには相当な時間がかかります。
キーワード検索は確かに便利ですが、探したい語句が正確に思い出せない時には使えません。
ページごとの情報にしても、紙の本にある行間や書体の変化、周囲の余白などは電子化の際に落とされてしまいがちで、視覚的な印象はかなり変化します。ページをめくるという感覚自体も、まったく異質なものになっているのです。
また、紙の本であれば学術書、実用書、小説と明確に体裁が分かれるものが、電子書籍のテキストデータではどれも同じように画面に表示されます。これではそれをどのようなスタイルで読むべきものなのか判断がつきにくくなることでしょう。


