体を動かせなくなるお年寄りたち
関節を動かさない状態が続くと、周囲の筋肉や靱帯も硬くなって関節の動きが悪くなります。この状態が長く続くと、関節が動く範囲はどんどん狭くなり、最後には本当に動かなくなってしまいます。これを「拘縮」といいますが、介護施設を訪問すると、胃ろうをつけられたお年寄りにはかなりの割合で拘縮が見られます。拘縮は予防が大切で、進行すればするほど、回復は難しくなります。しかし、生きる意欲や意志表示がないお年寄り一人ひとりに予防対策をするのは、人手不足に苦しむ現在の看護や介護の現場では困難です。
本人もつらいでしょうが、介護する側の負担も増します。それでなくても忙しい介護スタッフに、予防や改善のための手厚いケアができるとは思えません。拘縮は進む一方、つまりこの方々は息を引き取るその日まで、自分の身体をまったく動かすことができないまま、ベッドの上で寝たきりで過ごすしかないのです。しかも、胃ろうによって栄養だけは補給され続けるので、場合によっては何年もこの状態で過ごすことになります。
かつて自分が胃ろうを造った患者さんたちのその後を、初めて知った思いでした。
単なる延命治療になっていないか
胃ろうは間違いなくすぐれた技術です。問題なのは、その使われ方です。
胃ろうはもともと、手術や治療のために一時的に食べられなくなった方、中枢神経障害などの神経難病で食事がとれなくなるような患者さんのためのものでした。患者さんが回復して口から食事がとれるようになれば、チューブを抜いていました。
胃ろうを造ると一生そのまま……と思っている方もいるかもしれませんが、チューブを抜くとおなかの穴はあっという間にふさがります。そういう意味でも、胃ろうはとてもすぐれているのです。
ところが2000年頃から、胃ろうはものを食べたり飲んだりする力が低下したお年寄りの延命の技術としてどんどん使われるようになりました。近年、問題にされているのは、栄養を補給しても回復は望めず、寝たきりのまま生かされている認知症や老衰一歩手前の患者さんたちへの造設です。
なぜ胃ろうがお年寄りに広まってしまったのか、その原因はさまざまですが、一つには病院の事情があります。1990年代後半の診療報酬の改定によって、長期入院患者の診療報酬は引き下げられました。

