習近平政権が日本への渡航自粛を呼びかけ、大勢の中国人観光客が韓国に向かっている。インバウンド旅行者によるクレジットカード消費額は月間記録を更新し、韓国経済を潤している。一方、現地では反中デモが拡大し、観光客に冷たい視線が向けられている。過熱する中韓摩擦の実態を、海外メディアが報じている――。
2025年9月9日、韓国・ソウル中心部で、政府が発表した中国人観光団体に対する臨時ビザ免除措置に抗議する韓国市民
写真=©David G. McIntyre/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ
2025年9月9日、韓国・ソウル中心部で、政府が発表した中国人観光団体に対する臨時ビザ免除措置に抗議する韓国市民

「日本に行ったら親が心配する」

昨年11月、台湾有事をめぐる高市早苗首相の答弁に反発した中国政府は、地震や犯罪を理由に、自国民に対して日本への渡航自粛を呼びかけた。

行き場を失った中国客が流れ込んだ先の一つが、ビザが免除されたロシアだ。だが、そこで彼らは、知らぬ間に電子機器の運び屋に仕立て上げられたほか、美しい氷原が広がるバイカル湖では氷を突き破って車ごと沈む死亡事故も起きた。「危険」な日本を避けた結果、かえって危険に晒された格好だ。

さて、ロシアと同じくビザが要らない韓国にも、中国客が殺到している。しかし、彼らを迎え入れる韓国国民の感情は、必ずしも芳しくないようだ。

中国南部・広西チワン族自治区出身の20歳の大学生、チャン・リサ氏は、日本行きを取りやめた旅行者の一人だ。もともとスキー目的で日本行きを希望していたが、ウォン安で旅費が割安になったこともあり、韓国旅行に切り替えた。

シンガポール英字日刊紙のストレーツ・タイムズの取材に、「日本に行ったら親が心配する。反中感情が強く、身の安全が脅かされるのではと」と語っている。旅先選びの決め手は「安全」だった。

地理的にも中国から近い韓国は、日本旅行の代替地として人気が高い。同紙は今年1月、予約予測と航空便データを基に、春節(旧正月)連休で韓国がコロナ禍以降初めて日本を抜き、中国人旅行者の渡航先トップに立つ見通しだと報じている。

渡航者数の増加ペースは激しく、受け入れ側が戸惑うほどだった。ソウルで外国人向けに美容整形クリニックなどを仲介する医療観光コンサルタント、トニー・メディナ氏のもとには、春節休暇中の施術を希望する中国本土の見込み客から、数百件の問い合わせが殺到したという。前年の同時期はほんの数件だった。中国国内でも中国語でも、マーケティングは一切行っていない。

「韓国に20年いるが、こんな急増は見たことがない」とメディナ氏は語る。

中国人の消費額は前年比3倍超に

流れ込む中国マネーの急増で、韓国が潤っているのは事実だ。

韓国英字日刊紙のコリア・ヘラルドが今年6月に伝えた韓国観光公社のデータによると、5月のインバウンド旅行者によるクレジットカード消費額は2兆1200億ウォン(約2330億円。7月16日現在のレート、1ウォン0.11円で換算、以下同)に達し、月間で初めて2兆ウォンを突破した。

前年同月比で67.1%増となっており、2023年以降で最も大きな伸び率を記録した。急伸の牽引役となったのが中国人旅行者で、消費額は前年同月比で3倍超に膨らんでいる。

韓国の旅行テック大手ヤノルジャのシンクタンク・ヤノルジャ・リサーチは、2026年の中国人訪韓者数を700万人超、前年比15%増と予測している。韓国政府はこの好機を逃すまいと動いた。当初6月末が期限だった中国人団体客向けのビザなし入国制度を12月31日まで延長している。

韓国観光公社は、インバウンド消費の二極化を指摘する。インバウンド旅行者全体では20〜30代を中心に現地の文化体験を重視する「ライフスタイル」型の消費が広がる一方、中国人旅行者は超高級ブランドの購買に集中しているという。

だが、政府レベルで中国人観光客が歓迎される一方、韓国国民は必ずしも良い印象を抱いていない。