黄海に現れた謎の鉄骨構造物
海上でも両国の間に緊張が走っている。政策シンクタンクの全米アジア研究局の2020年の報告書では、黄海での中国漁船の違法操業による韓国側の経済的損失は年間約11億ドル(約1780億円。7月16日現在のレート、1ドル162.09円で換算)に上ると指摘されている。拿捕・検査の際に中国漁民から攻撃を受け、韓国海洋警察の隊員が複数名殉職する事態も起きている。
こうした対立は今も深刻化する一方だ。黄海には2001年の韓中漁業協定に基づき、両国の漁船が一定の規則のもとで操業できる「暫定措置水域」が設定されている。米外交専門誌のディプロマットは2025年8月、この水域内に高さ・直径ともに50メートルを超える鉄骨構造物が確認され、同協定に違反していると報じた。名目は漁業施設だが、実態は石油掘削施設ではないかとの見方もある。
こうして、歴史認識や文化の起源をめぐり対立していた中韓関係に、中国人観光客の急増による摩擦が加わった。
韓国政府は中国からの観光需要を取り込みたい一方で、国内の反中感情を抑えきれない板挟みに陥っている。
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は昨年9月9日、反中デモを公式に非難した。11月11日の閣議では、反中の横断幕を「下品で恥ずかしい」と批判。コリア・ヘラルドによると、その1週間後の11月18日には行政安全部が20ページにおよぶ指針を公表し、政治的横断幕を禁止広告物の対象とする基準を定めた。
中国を批判してきた大統領の「翻意」
中国国旗を引き裂いた一部のデモ参加者は、警察の捜査対象となっている。全北大学の学生で「フリー・ユニバーシティ」のメンバーであるイ・サヤ氏は、「この弾圧は、李政権が中国を恐れているから起きた」とタイペイ・タイムズに語っている。
しかし李大統領自身、かつては反中的な立場を取っていた。韓国英字日刊紙のコリア・タイムズによると、2022年の大統領選では、候補者だった李氏が中国当局を、「祝祭イベントを文化盗用に悪用している」と批判。
対立候補の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏も、「高句麗と渤海は韓国の輝かしく誇り高い歴史の一部だ」と強調している。党派の対立を超えて、中国が韓国文化の起源を主張することへの反発は広く共有されていた。
その李氏が、政権に就くと一転、反中運動の取り締まりに乗り出した。タイペイ・タイムズによると、昨年10月には、与党「共に民主党」の議員が、反中運動で用いられる歌やスローガンの使用を禁止する法案を提出した。違反者には最長5年の禁錮刑が科される。
だが政府が規制を強める一方で、国民の反中感情はかえって強まっている。ストレーツ・タイムズは、韓国メディアが中国人観光客の急増と犯罪増加を結びつけて報道し、SNSでも同様の投稿が拡散していると伝えた。政府はこれを「根拠がない」と退けているが、ビザ免除措置の撤回を国会に求める請願には約6万人が署名した。

