「推し活」。この言葉が流行語大賞にノミネートされたのは、2021年のこと。「推し」は生活を彩るポジティブな言葉として広まった――はずだった。「推し」とは何か。取材をはじめた加山竜司さんは、違和感に突き当たる。

「事前に知っていた知識と当事者の考え方とがあまりにかけ離れていたのです」

加山竜司
漫画ジャーナリスト、ライター。1976年、静岡県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2005年にフリーランスに転身。『このマンガがすごい!』(宝島社)をはじめとしたメディアで、漫画家へのインタビュー記事を多数執筆している。

アイドルに2000万円以上を使う。VTuberを月100時間も視聴する……。本書は、一線を越えた推し活当事者たちのルポルタージュである。

近年、ファンが推しのインフルエンサーやホストを殺傷したり、推し活のために売春したりするニュースが報じられるようになった。ファンはホストや運営に騙され、搾取される被害者だと感じる人もいるだろう。

「実際は」と加山さんは語る。

「ファンは、自分が好きではじめたことだから騙されたとも思っていないし、後悔もしない。もっとお金や時間を注ぎたいという人もいます。好きが、いつの間にか依存や執着、義務感にすり替わる推し活の構造が見えてきました」

加山さんは、推し活とは周囲から羨望を集めることを目的にした、現代の消費構造に通じる「顕示的消費」だと指摘する。かつて“オタク”とは、情報を発信する側になりうるセミプロだったが、いまは運営が敷くレールに乗り、ただの消費によって承認欲求を満たす存在へと変わった。

加山竜司 『「推し」という病』文春新書/1200円+税
加山竜司 『「推し」という病』文春新書/1200円+税

「だからといって運営側だけが悪いとは言い切れません。客側が推し活の構造に過度に適応した結果、自ら大量消費の道を歩んでいるように見えます。本来の推し活は日々の暮らしに彩りを与えてくれるもの。しかし日常に重みがないから、推し活という非日常の“祝祭”に耽溺してしまう」

いつしか浸透した「推し」。本書は、耳に優しい言葉の背景に潜む現実を可視化する。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年4月3日号)の一部を再編集したものです。

(インタビュー・文=山川 徹 撮影=門間新弥)

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