“推し活”にハマっている人は、どんな生活を送っているのか。漫画ジャーナリストの加山竜司さんは「私が取材した53歳の男性は、好きなアイドルに3000万円以上のお金を使い、1万枚以上のCDを購入していた。脳梗塞で入院した際も、病院を抜け出してライブに行くほどの熱量を持っていた」という――。

※本稿は、加山竜司『「推し」という病』(文春新書)の一部を再編集したものです。

1万枚以上のCDを買った「トップオタ」

「総選挙の時にはシングルCDを1000枚買いました。大場美奈のために買ったCDは、合計1万枚は余裕で超えてますよ」

【かちょす】と名乗るその男は、こともなげに呟いた。

アイドルグループ「AKB48」の2010年代におけるビジネススキームは、ファンに同一のCDを複数枚購入させようと誘導したところに特徴があり、俗に「AKB商法」と批判された。

同梱された握手券やAKB48選抜総選挙の投票券を目当てに、多くのオタクがCDを複数枚購入した結果、世間にも「AKBオタク=CD大量購入」のイメージは定着したことだろう。CDを買えばアイドルと触れ合えるわけである。この手法は「握手券商法」ないしは「接触商法」とも揶揄された。

AKB48の「チーム4」の新公演「手をつなぎながら」が初日を迎え、公開ゲネプロ(全体リハーサル)でパフォーマンスを披露するキャプテンの峯岸みなみ
写真=時事通信フォト
AKB48の「チーム4」の新公演「手をつなぎながら」が初日を迎え、公開ゲネプロ(全体リハーサル)でパフォーマンスを披露するキャプテンの峯岸みなみ(中央)らメンバー(=2013年11月3日、東京・秋葉原のAKB48劇場)

もちろん、接触商法は「AKB48」だけの専売特許ではない。

たとえば「モーニング娘。」の場合、1998年にシングル「モーニングコーヒー」でメジャーデビューをした際には、全国14カ所でメジャーデビュー記念握手会を行っている。あるいは演歌の世界では、歌手本人がスナックなどで手売りするケースが昔からあり、接触商法自体は芸能界で慣例化していたものだ。

そのシステムから得られる利益を最大化したのが「AKB48」であった、というだけの話である。

ただ、「AKB48」が躍進した2010年は、音楽業界全体の売上が落ち込み「CD不況」が叫ばれていた時期であったから、セールスランキングの上位を独占したことで目立っていたのも事実だ。

2010年のオリコン年間ランキングシングル部門では、1位「Beginner」、2位「ヘビーローテーション」、5位「ポニーテールとシュシュ」、8位「チャンスの順番」と、トップ10中になんと4曲も「AKB48」の楽曲がランクインしている。

冒頭の発言をした【かちょす】は、実際に「AKB48」のCDを大量購入していた当事者であり、ファンの界隈では「TO(トップオタク)」のひとりとして認知され、テレビや雑誌でもたびたび取材されてきた。

TOはそのジャンルの界隈では、ちょっとした有名人でもある。