地方なら「売り上げ1日1万円」がいいほう
JR佐賀駅から佐賀トヨタ本社まで、約5kmの道をタクシーに乗った。乗り込んで、行先を告げたら、70代のタクシードライバーは満面の笑みを浮かべ、こう言った。彼は上着ではなく、ジャージ姿だった。
「ありがとうございます。時間は10分くらいで、料金は1800円くらいです。安全運転で行かせていただきます」
その後、タクシーを下りるまでの間、70代は上機嫌だった。
「お客さん、東京からなんだって。東京のタクシーは儲かるんですかね。水揚げはいくらくらいになるんですかね?」
わたしは正確に答えた。知っていたからである。
「平均で5万円くらいらしいです、東京だと。佐賀だと平均で2万円から3万円くらいですか?」
タクシードライバーはむっとした表情をした。
「お客さん、冗談を言っちゃいけません。そんなにあるわけないです。佐賀駅に付けていたって、乗る人なんてほとんどいませんわ。佐賀の人は自家用車を持ってますから、タクシーには乗りません。この辺でタクシーをやっている人はみんな年金もらってる人です」
彼は「1万円になればいいほうです」とも言った。
そこで、わたしは考えた。県庁所在地の佐賀駅でさえタクシーを利用する人はほぼいないようだ。利用する人がいないから、タクシーの水揚げは少ない。水揚げが少ないとわかっているから運転手をやる人はいない。地方でタクシードライバーをやっている人はほぼほぼ年金生活に入った高齢者だけなのだろう。そして、これは何も佐賀だけではない。日本でタクシードライバーをやって生活していけるのは都市だけだ。タクシードライバーとは都市だけで成立するサービス業になっている。それが現実だ。
タクシーは都市でしか成り立たない
タクシーについて、マスコミが話題として取り上げるのは配車アプリの普及、そしてタクシーの無人運転はいつ始まるのかといったものだ。しかし、日本全体で考えると、タクシー業は都市でしか成り立たないのだから、配車アプリの便利さは都市に暮らす人、もしくは観光客にしかわからない。
無人運転タクシーはいずれ実現するだろう。だが、都市でも地方でも有人タクシーがすべて無人になることは考えられない。都市でも、地方でもタクシーを使う人とは高齢者だ。駅やバス停まで歩くことができなくなり、自家用車を手放した高齢者が乗客の過半を占めるようになるだろう。そうした場合、高齢者はドライバーがいるタクシーを選ぶのではないか。高齢者がスマホで無人タクシーを呼んで、マップに旗を差して目的地までうまくたどり着くことができるのか……。
無人運転タクシーが実現して普及しても、タクシードライバーが運転するタクシーはなくならない。今、仕事をしているタクシードライバーは今後も生き残る。
では、そうなったとしたら、客はタクシードライバーに何を望むのか。
わたしはその答えを知っているひとりのタクシードライバーを見つけた。松本博之、70歳。都内にあるタクシー会社でトップクラスの成績を誇るドライバーだ。乗務する時はスーツを着て時にはネクタイを締める。

