ソーセージ工場の会議室になったリニア車両
2017年9月、嵐の夜。ドイツ北西部の道路を、3台の重量物運搬用トラックが連なって進んでいく。荷台に横たわるのは、全長75メートルの流線型の車体。ドイツが世界に先駆けて開発した磁気浮上式鉄道「トランスラピッド」の先行量産型車両「TR09」だ。
オランダモビリティ財団のスティヒティング・フリーダム・オブ・モビリティによれば、3両編成のTR09は北西部ラーテンの村にある旧試験施設を出発し、一晩かけてノルトルプへ運ばれたという。向かった先は、磁気浮上の原理を発明したヘルマン・ケンパーの親族が営むソーセージ・ハム製造会社「ケンパー」の敷地だった。こうして運ばれた最新の車両は、今もソーセージ会社の会議室として使用されている。
TR09の車体は実験線を退役した後、オークションにかけられた経緯がある。それをケンパー社が落札した。同社は到着を記念し、集まった報道陣や住民にパンとブラートヴルスト(焼きソーセージ)を振る舞ったという。同社はTR09をガラスの駅舎風の建物で囲み、創業130周年に合わせて一部を一般公開する計画も発表した。
同社の公式サイトには今も、「トランスラピッドが電磁浮揚の革新的なアイデアの記念碑として設置され、若い世代に明日のソーセージ・ハム製品を再考する動機を与えている」と記されている。
社名をザ・ファミリー・ブッチャーズに変更した現在も、TR09は敷地内に設けられた専用のコンクリート軌道の上に鎮座している。
1500億円を注ぎ込んで国内商業路線はゼロ
英鉄道業界専門誌のインターナショナル・レイルウェイ・ジャーナルによると、1960年代末以降にドイツの官民がこのプロジェクトに注ぎ込んだ研究開発費は、8億5000万ユーロ(約1500億円)にのぼる。
トランスラピッドの開発・販売を担ったのは、ドイツのシーメンスとティッセンクルップからなる合弁会社、トランスラピッド・インターナショナルだった。だが、半世紀以上にわたる巨額投資にもかかわらず、ドイツ国内に商業路線は1本も実現しなかった。
唯一の商業路線は、技術輸出をして2004年に中国・上海で開業した空港シャトル「上海トランスラピッド」だ。浦東空港と地下鉄接続駅の龍陽路駅の間を最高時速430キロで結ぶ、全長約30キロの路線。JR山手線1周の約9割にあたる距離だ。
ドイツ国内で唯一残っていたエムスラント試験線も、2011年、運行許可の期限切れとともに静かに閉鎖された。
日本のリニア開発と時をほぼ同じくして進められた、ドイツのリニアプロジェクト。何がプロジェクトの頓挫につながったのか。
