産業基盤を失い、技術を中国へ
この事故により、ドイツのリニア産業は事実上の壊滅状態となった。
2年後の2008年には、ミュンヘン空港計画も正式に打ち切られた。インターナショナル・レイルウェイ・ジャーナルは、これを境にドイツの産業パートナーの大半がリニア事業から撤退したと指摘する。ローリングストックによると、トランスラピッド・コンソーシアムもラーテン事故から立ち直ることのできないまま、2012年に活動を停止した。
国内の産業基盤を失ったドイツは、技術のライセンス供与に踏み切った。半世紀以上かけて築いたリニアの技術的優位を、他国に明け渡す選択だった。
そのライセンスを取得したのが、中国国有のCRRC(中国中車)である。香港の英字オンライン紙のアジア・タイムズは、傘下のCRRC青島四方がドイツの重工業大手ティッセンクルップからトランスラピッド技術のライセンス供与を受け、リニア開発を進めてきたと説明する。
CRRCは2016年、設計最高時速600キロのリニア開発計画を発表。2018年7月にはティッセンクルップとスマートモビリティや磁気技術を含む分野で技術協力の覚書(MOU)を交わしている。
もっとも、新華社は2021年7月、CRRC青島四方が時速600キロ級のCRRC600を「自主開発」したと報じた。この「自主開発」という主張には疑問が残る。事実、2023年3月に中国とドイツの機械工学者が共同で発表した学術論文は、CRRC青島四方とティッセンクルップの間に「緊密なパートナーシップ」があると言及している。ドイツ由来の技術は、中国にいまなお深く根付いている。
ドイツ国内は820メートル、中国では3.5キロ
上海トランスラピッドで見た「ドイツが造り、中国で走る」という構図は、次世代の都市型リニアにも見られる。
ドイツの建設大手マックス・ベーグル社が新たに開発した、「トランスポート・システム・ベーグル(TSB)」。都市交通向けに設計されたリニアであり、営業速度は時速150キロ、建設費は1キロあたり2000万ユーロ(約36億円)からとなっている。しかし同社もまた、実用規模の実証路線をドイツ国内につくることができなかった。
完成した実証路線は、中国・成都にある。全長3.5キロ。インターナショナル・レイルウェイ・ジャーナルによると、同社は中国の新築路橋機械と2018年に合意し、ドイツから650本を超えるコンテナに分割して軌道設備を現地へ輸送した。車両もドイツ製だ。
2024年4月、この路線で時速181キロを記録。中低速リニアの世界記録を塗り替えた。プロジェクト完了後、同社は四川発展マグレブテクノロジーズと新たな共同開発にも合意している。
一方、ドイツ本国に残る試験線はゼンゲンタールのわずか820mだけだ。ローリングストックは、ミュンヘン、ハンブルク、ベルリン、ニュルンベルクなど複数の都市でTSB路線が計画されたものの、どれひとつ承認に至っていないと指摘する。

