高コスト、合意形成、ICEという3つの壁

なぜ、どの計画も実を結ばなかったのか。米技術解説誌のインタレスティング・エンジニアリングはいくつかの要因を挙げているが、国内路線の頓挫に直結した主な要因は次の3つだ。

1つ目は、コストの壁だ。磁気浮上式鉄道には専用の高架軌道(ガイドウェイ)や高度な制御システムが欠かせず、既存の鉄道インフラは使えない。莫大な初期費用がかかるうえ、資金の確保が困難だった。

2つ目は、合意形成の壁だ。利害関係者の反対、環境問題、用地取得の困難が重なり、政治・行政の調整は遅々として進まなかった。

3つ目は、既存の高速鉄道との競合だ。ドイツのICEやフランスのTGVといった従来型の高速鉄道でも、同等の速度をより低いコストで達成できることが分かっていた。政府や投資家にとってより魅力的な選択肢であり、リニアはこれらに対する優位性を示しきれなかった。

いずれの路線計画も、この3つの要因に阻まれては立ち消えになっていった。

こうして費用の問題や政治的対立で国内の計画が何度も頓挫するなか、2006年、トランスラピッドにとって致命的な事故が起きた。

23人死亡、「希望の象徴」は「破壊の象徴」に

2006年9月22日、ラーテンの試験線。乗客を乗せた初めての試験走行で、「TR08」が保守用車両と正面衝突したのだ。「ローカル」は事故から10年後に掲載された振り返り記事で、当日の経緯を詳しく伝えている。

それによると午前9時ごろ、保守用車両は全長31キロの軌道を一周し、安全確認を終えていた。本来ならそのまま軌道を離れるはずだったが、指令センターに待避線へのポイント切り替えを求めたところ、すぐには許可されなかったとされる。そして午前9時40分、指令センターは保守車両の存在を失念したまま、TR08の出発を許可した。

インタレスティング・エンジニアリングによると、TR08は時速450キロで走行中に非常ブレーキが作動し、時速162キロまで減速した。それでも止まりきれず、出発からわずか15分後、衝突事故に至っている。

車内にいた34人のうち23人が命を落とし、複数が重傷を負った。原因は、保守用車両が退避する前にTR08の出発を許可してしまった人為的なミスだった。

23人が死亡する事故を起こした「TR08」の車両
23人が死亡する事故を起こした「TR08」の車両(写真=Spoorjan/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

自動衝突回避システムがあれば、事故は防げた可能性が高い。商業路線なら備わっていたはずだが、試験線にはそうした備えがなかった。リニアモーターカーで死亡事故が起きたのは、世界で初めてのことだった。

事故現場にはいま、犠牲者を偲ぶ追悼施設が設けられている。当日いち早く駆けつけた救急隊員のベルベル・ヴェンペ氏は、「ローカル」の取材に、「トランスラピッドは希望に満ちた時代の象徴ではなく、破壊の象徴になってしまった」と語る。