社会保障のための税は安易に下げるべきではない
いま、特別国会が閉幕したタイミングでこの原稿を書いている。高市早苗首相は記者会見で、改正皇室典範や国家情報会議設置法など、政府が提出した64の法案がすべて成立したと成果を報告した。副首都法や国旗損壊処罰法などは、ニュースでも多く報じられているのでご存知の方も多いだろう。しかし、連立政権合意の条件となっていた衆院定数削減法案は、秋の臨時国会に先送りになってしまった。
さらに、国民にとっては一番の関心事ともいえる食料品の消費税減税は、国会ではなく、超党派の「社会保障国民会議」で議論が進められてきたが、こちらも与野党の意見が対立したまま合意には至らなかった。
社会保障国民会議において実質的な議論の場となった実務者会議は、7月27日までに21回も開催。議長を務める自民党の小野寺五典税制調査会長は、飲食料品の税率を8%から1%へ引き下げる案を示し、あわせて1%相当分にあたる年およそ6000億円を中低所得者に現金で配り、実質的な負担をゼロにする、という方針も打ち出して与野党の意見集約を進めようとした。
しかし、野党は一斉に反発。国民会議に参加した野党6党のうち、日本保守党を除く5党が反対。中道改革連合が食料品の恒久減税を求めれば、国民民主党は「減税よりも給付が望ましい」と主張するといった具合だ。公明党は物価高対策として、来年4月を待たずに定額給付を早急に実施すべきだと訴えた。要するに、減税ではなくもっと現金を配れ、というわけだ。
高市首相は8月初旬までにまとまれば法整備が間に合うとの考えを示しており、記者会見でも「最後まで知恵を出し合いたい」と述べているが、国民会議が意見のとりまとめを断念したため、消費減税の結論は、高市首相の最終判断に委ねられる形となった。
私は、以前からこの消費税に関する議論の進め方には首をかしげてきた。この連載の読者の皆さんには何度か話しているが、私は消費税を必要な税金だと考えており、社会保障を目的とした税である以上、安易に税率を下げるべきではないと考えている。
そもそも消費税とは何か。これは、社会福祉や医療といった社会保障の政策に活用するために生まれた税である。つまり、税率を下げて税収が減るということは、そのまま社会保障に回る金が減るということにほかならない。医療も、介護も、年金も、支えている土台が細るのである。
そうなれば「その減った分をどこから持ってくるのか」「土台が細るのはやむをえないのか」という議論が出てこなければおかしい。ところが、そういうことを誰も言わない。ただ「消費税を減らせ」「いや、給付にしろ」という声だけが聞こえてくる。消費税が何を支えているのかという一番大事なところを誰も語らないまま、一見ありがたそうな話ばかりが飛び交っている。
もっと言えば、減税すれば社会保障の規模そのものが縮小するのだ。医療や介護の現場に回る金が減れば、そこで働く人の待遇にも響く。減税で恩恵を受けるはずの国民が社会保障サービスでは不便を被るし、働く人の生活は苦しくなるのだ。「社会保障国民会議」という名前をつけているのだから、そういう本質的な課題に踏み込んでもらいたかった。
もちろん、減税や給付が有権者に喜ばれることは、私にもわかる。目先の暮らしを楽にしたい人は多いだろうし、給付金も、もらえるならもらいたいと思うのが人情だ。政治家にとっても、選挙を考えれば減税や現金給付は魅力的だ。しかし、冷静に考えると、国民に不利益を強いる面があることも忘れてはならない。先の衆院選では、与野党を含めてほとんどの政党が消費税の減税を公約に掲げていたが、いざ具体案が出てくると野党は反対に回っている。衆院選のときにしていた話はどこにいったのかと思う。
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