私有財産の“壁”が道路をふさいでいた

この夏は非常に自然災害が多かった。7月28日に発生した熊本地震。発生1カ月後の8月27日時点での内閣府のまとめによると、38人が死亡、34人が重傷、住家被害は、全壊が1730棟、半壊が3139棟となっていた。いまだに、63カ所の避難所で2519人の被災者が生活している。地震発生後の連日の猛暑も、復旧の妨げになっている。

全国各地で豪雨被害も相次いだ。私が住んでいる千葉県でも8月13日から14日にかけて、記録的な豪雨に見舞われた。線状降水帯が次々に発生し、24時間に降った雨の367ミリは観測史上1位だという。中でも冠水した道路で動けなくなった車両の被害が印象的だった。夕方の交通量が多い時間帯だったこともあり、放置された車両は県全体で2700台を超えたといわれる。想定以上の対応にレッカー車も足りず、幹線道路での撤去が終わるまでに1週間近くかかった。

8月27日には、石川県、富山県で、8月30日には福井県で線状降水帯が発生して浸水被害が広範囲に及んだ。こちらでも、水没して動けなくなる車両が相次いだ。しかし、ここ数年、熊本県と石川県は自然災害の被害が集中していて、被災者の方の苦労を思うと胸が痛む。

実は、2014年に災害対策基本法が改正されるまで、被災地へ向かう道路をふさぐ車両には手が出せず、車体を壊してまで動かすこともできなかった。私も改正法の成立には関わったのでよく覚えているが、この年の2月に、関東甲信越地方で記録的な大雪が降ったのが改正のきっかけだった。特に降雪量が多かったのが山梨県で、立ち往生する車両や、放置される車両が多数発生して、除雪車が通行できなくなり、数日間にわたって多くの道路が通行止めとなった。この結果、長期間孤立する集落もあるなど、被害が拡大した。

この経験から、大規模地震や大雪などの災害時に緊急通行車両の通行を確保するため、私有財産であっても、県や市など道路管理者による放置車両などの移動の必要性がクローズアップされたのである。当時の第2次安倍内閣のもとで、大雪の発生から9カ月で改正法の施行にこぎつけた。いつもは内閣提案には猛反対する野党も、この改正案には協力的で衆参両院とも全会一致で可決した。

この改正により、災害時における車両の移動などを規定したのが災害対策基本法第76条の6第1項である。

14年12月、改正法成立後初めて、愛媛・徳島県境の国道で大雪により約130台が立ち往生した際に車両の排除が行われた。その後は、大雪だけでなく、豪雨被害や24年の能登半島地震でも、この法律で、緊急車両が多くの人を助けてきた。

今回の千葉豪雨でも、千葉県と千葉市は8月14日朝、この規定に基づく区間指定を行った。それでも放置車両が車道をふさぎ、水が引いた後も断続的に渋滞が発生していた。この法律がなければ、持ち主全員に同意を確認しなければならず、被害がどれほど長引いたかわからない。

この法律では、道路管理者が車両などを移動させる際にやむをえず破損することも認められている。例えばサイドブレーキを外すために窓を割ることや、重機で動かすときに車体を傷つけることなどが想定されている。損失補償の規定もある。

だから、万が一のときには、生命を守るため、車両からの脱出・避難を優先してほしい。しかしながら、災害級の豪雨や大雪のときは、車に乗らないのが一番だろう。

(写真=時事通信フォト)

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