事実関係が不明だとさらに炎上する
多くの経営者や広報担当者が恐れるのが「炎上」という現象だろう。
若い人なら「炎上」の2文字だけで何を示すのかわかるだろうが、私と同世代の読者はピンとこないかもしれないから、一応意味を説明しておこう。炎上とは、特にSNSやインターネットにおいて、何か特定の人物や企業に対して批判や非難が殺到する現象のことを指す。一度非難が殺到すると、ある意味で「話題のトピック」となってしまい、悪評が勢いよく拡散することから、火が燃え広がる様子にたとえて「炎上」と呼ばれるようになったものと思われる。
昨今は企業の不祥事でも、有名人の失言でも、炎上が起これば当事者は判で押したように記者会見を開いたり、謝罪文を公表するなどで頭を下げるイメージがある。だが私は、この「とりあえず謝っておく」という風潮を、あまり良くないことだと感じている。
私は半世紀近く政治の現場に身を置き、数えきれないほどのトラブルを見てきた。その経験から断言できるのは、危機管理でまず手をつけるべきは謝罪ではない、ということだ。最初の一声で示すべきは、何が起きたのか、なぜそうなったのか、という事実関係の説明である。捜査当局と同等か、それ以上に詳しく調べて経緯を語る。謝罪はその後で構わないと考えている。
「ご迷惑とご心配をおかけしたことをお詫び申し上げます。これから事実関係について、調査を進めてまいります」というのは会見でよく耳にする台詞だが、これは最悪だ。調べてもいないのに頭を下げれば「何も把握していないのか」と思われるし、マスコミからは「もっと大きなネタが隠れているかもしれない」と思われてしまい、さらに追及を受ける可能性もある。実際には何もなかったとしても、真偽不明の疑惑が取り上げられるだけでもイメージダウンにつながるのだから、やはり初動の対応は非常に重要だと言える。
最近の例で言えば、読売ジャイアンツの阿部慎之助監督(当時)が、家庭内のトラブルをきっかけにした暴行事件で監督を辞した。だが、あの一件には不可解な点が多い。第一に、何が起こったのかがよくわからないのだ。
報道では自宅で姉妹が喧嘩をはじめ、それを止めようとした際に長女に暴行を加えた、などとされているが、肝心のジャイアンツ側からは事実関係の発表がない。読売ジャイアンツの公式サイトを見ても、初勝利を挙げた橋上秀樹監督代行の記念グッズ発売のお知らせはあるのに、阿部監督が辞任したことに関してのアナウンスはなかった。
また、会見では阿部前監督の長女による手紙も読み上げられたが、「殴る・蹴るなどといった事実はございませんでした」と発表されており、報道とは矛盾しているように思える。
こうなると、様々な臆測が飛び交うのは当然と言える。「暴行が行われていないなら、辞任するのはおかしいのではないか」という意見が出ても不思議ではないし、実際にどのような暴行があったのかわからないから、「親子喧嘩で手が出てしまうことくらいあるだろう」と言われるのもわかる。
結果として様々な臆測が飛び交ってしまい、この話題がなかなか鎮火しない状況になっている。辞任の撤回を求める署名活動まで行われていたようだ。阿部前監督には同情的な意見が多いようだが、この事件がいつまでも報じられること自体が球団にとってはマイナスだろう。
ここから先は有料会員限定です。
登録すると今すぐ全文と関連記事が読めます。
- 広告最小化で快適な閲覧
- 雑誌『プレジデント』が最新号から読み放題
- ビジネスに役立つ学びの動画が見放題
- 会員限定オンラインイベント
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます


