「営業が強い会社」は本当に正しいのか
2039万円――日本人の平均年収460万円(2023年)の、約4.5倍。これは、ある日本企業の平均年収である。平均年齢は34.8歳。日本人の感覚では、信じがたい数字だろう。
その会社の名は、キーエンス。
世間がこの会社について語るとき、議論はいつも年収の話で終わる。「異常な高給」「特殊な会社」「ブラックなのではないか」「営業がすごいらしい」――。しかし、その表層の議論の下に、本稿が日本の経営者に伝えたい構造がある。それは、キーエンスという会社が、26年から始まったフィジカルAI時代において、世界で最も決定的なポジションの一つに立っている、という事実である。
書籍『フィジカルAIの衝撃「身体をもった人工知能」は2030年の世界をどう変えるか』(朝日新聞出版)で、私はキーエンスを「現場の1次データを生み出す側」に立つ企業として位置づけた。本稿では、書籍に書ききれなかった最新の事実と、なぜキーエンスの年収2039万円が「むしろ安すぎる」と言えるのか、その構造を5月時点の最新情報とともに提示したい。
25年6月に開示された有価証券報告書によれば、キーエンスの平均年収は2039万円。係長クラスで2706万円、課長3538万円、部長4266万円(各種独自算出)。新卒1年目でも700万〜800万円。20代後半で年収1000万円超に到達する事例が珍しくない。
この高給を支えているのが、同社の驚異的な収益構造である。26年3月期の連結業績は、売上高1兆1692億円(前期比10.4%増)、営業利益5957億円(同8.4%増)、営業利益率51.0%で、5期連続過去最高益更新。海外売上比率は66.6%。自己資本比率94.6%という驚異的な財務体質。製品の原価率は10〜20%とされる。
世間に流通している説明――「キーエンスはセンサーで儲けている会社」「営業が強い会社」「効率経営の会社」――は、半分正しく半分間違いだ。これらの説明は表層であって、本質を捉えていない。それは――キーエンスが半世紀かけてつくり上げてきたのは、製品ではなく「現場の1次データを生み出す仕組み」そのものである、ということだ。
そしてこの仕組みは、フィジカルAI時代に決定的な意味を持つ。書籍『フィジカルAIの衝撃』で私が示した命題を提示したい。脳(WFM、ワールド・ファウンデーション・モデル、世界の物理現象を学習した汎用基盤モデル)がコモディティ化するほど、差別化は「世界をどう観測できるか」「どれだけ高解像度で現場を測れるか」に移る。その「測る側」の頂点に、キーエンスがいる。同社の製品は、センサー、画像処理システム、計測機器、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)など多岐にわたる。これらは技術的に優れているが、競合他社にも類似製品は存在する。製品技術の優位性「だけ」では、営業利益率51%は説明できない。
では、本質は何か。それは――現場に入り込む「仕組み」そのものである。
第1の仕組みは、「コンサルティング営業(同社で言う「提案営業」)」である。キーエンスの営業は、製品を売る前に、顧客の課題を深くヒアリングする。工場のどの工程でどんな不具合が起きているか。検査でどんな見落としがあるか。歩留まりはなぜ落ちているのか。これらを徹底的に聞き出し、課題の根本を見つけ出す。
ここから先は有料会員限定です。
登録すると今すぐ全文と関連記事が読めます。
- 広告最小化で快適な閲覧
- 雑誌『プレジデント』が最新号から読み放題
- ビジネスに役立つ学びの動画が見放題
- 会員限定オンラインイベント



