東京に人が集まるのに、なぜ豊かにならないのか

フィジカルAIは仕事を変え、企業を変え、産業を変える。しかし最も見落とされているのは、AIは国家の地理を変えるということだ。

筆者は2026年5月に『フィジカルAIの衝撃』(朝日新聞出版)を刊行した。そこで論じたのは、フィジカルAIが産業と企業をいかに書き換えるかであった。しかし本稿では、その議論をさらに一段高めていく。フィジカルAIは産業や企業を変えるだけでなく、国家の地理そのものを変える。そのことを、東京一極集中という日本固有の問いを通じて論じたい。

情報・資本・人材・意思決定がどこに集まるかは、技術によって規定される。農業社会では肥沃な土地と水源のそばに人が集まった。工業社会では港湾・鉄道・原材料の集積地に都市が生まれた。知識社会では情報と人材の密度が高い都市――東京・ロンドン・ニューヨーク――に経済の重心が移動した。技術が変われば、国家の地理は変わる。AIは今まさに、その転換点を作り出している。

東京はどうか。大企業の約6割が東京に本社を置くという数字は30年前からほとんど変わっていない。集積は維持されながら、集積の果実=生産性の向上は実現しなかった。その間、日本のGDP成長率は主要先進国中最低水準にとどまった。「人が集まっているのに、なぜ豊かにならないのか」。これが日本固有の問いだ。

東京一極集中の問題は「東京に人が集まること」ではない。「集まっているにもかかわらず、集積を生産性と価値創造に変換できていないこと」だ。そして今、AIという変数が加わることで、その問いはより根本的な問いへと昇格する。国家の地理そのものをどう再設計するか、という問いへ。

問いの背景に、一つの構造的事実がある。日本はいつの間にか、「成長する国家」ではなく「分配する国家」になってしまった。

08年以来、東京から地方への再分配は累計12兆6000億円を超えた。それでも人口の地方回帰は起きなかった。25年国勢調査の数字がそれを証明している。財源を移しても産業は動かない。これが20年近い実験の結論だ。なぜか。分配の設計はされていたが、成長の設計がなかったからだ。

よかれと思ってかけた20年と12兆円の罪

地方交付税の仕組みを見よう。地方では税収が増えると交付税が減額され、さらに増収分のうち手元に残るのは25%にすぎない。東京は増収分を100%享受できる。日本経済が成長するほど格差が拡大する「逆進的メカニズム」が制度に内蔵されている。企業経営で言えば、売り上げが増えても利益の75%を本社に吸い上げられる子会社と同じ構図だ。そういうインセンティブ設計の下で、子会社が自ら稼ごうとする意欲を持てるはずがない。

しかし最大の問題は数字ではない。分配国家の思想そのものが、日本の成長を阻んでいることだ。分配は結果を調整する。成長は原因を変える。結果の調整に20年と12兆6000億円をかけながら、原因の変革を怠ってきた。その代償が、今日の一極集中の固定化だ。

なぜコロナ禍のリモートワーク普及でさえ、東京一極集中を是正できなかったのか。答えは明快だ。リモートワークは「働く場所」の制約を緩めたが、「価値が生まれる場所」の構造を変えなかった。意思決定・情報・ネットワーク・機会――これらは依然として東京に固定されていた。場所を選ばない働き方が実現しても、価値創造の文脈は東京にあり続けた。