なぜ国家の指導者たちは、鋼鉄に固執するのか。中国の毛沢東は1950年代の終わり、鋼鉄の増産に執着するあまり国民に「土法炉」の建設を命じ、調理用の鍋や農具まで溶かして鋼鉄をつくらせた。だがその結果、中国は史上最悪の飢饉に襲われ、控え目に見積もっても1700万人から3000万人が命を落としたという。エド・コンウェイ(著)、佐藤優(監訳)『MATERIAL WORLD 世界は「資源」で動かされる』(三笠書房)より、紹介する――。

※本稿は、エド・コンウェイ(著)、佐藤優(監訳)『MATERIAL WORLD 世界は「資源」で動かされる』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

毛沢東は「大躍進政策」として鉄の大量生産を国民に命じた
鉄の生産風景(画像=EDUCATION ABOUT ASIA/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

「鉄は国家なり」なのか

この金属は、重要である。鋼鉄はただの物質ではない。人類が何千年にもわたって使ってきた基本的な素材であり、そのおかげで人類は進歩してますます豊かになった。

武器や防具をつくる支配者は、同時にあらゆることを可能にする工場を建設し、機械類や回転エネルギーを生み出すタービンをつくる場合が多い。

つまり、発電し、化学肥料の大量生産を可能としたハーバー・ボッシュ法のような高圧化学反応を起こし、社会の中核を成す道路、飛行場、鉄道を建設することができるようになる。

2018年に当時のドナルド・トランプ大統領が鋼鉄に輸入関税を課すと発表したときに、アメリカと国内の労働者を守るためにそうするのだとツイートし、こう締めくくっている。「鋼鉄がなくなれば、国が消えるのだ!」。

控え目にいうと、経済学者にはこのような議論にかまける時間があまりない。国がどこかから何かをより安い値段で買うことができるならば、確かにそうするのが道理である、と彼らは指摘する。そしてこれを論破するのも難しい。

だが、鋼鉄は特別扱いするに値すると結論づけている政治家は、トランプ大統領だけではない。ほぼすべてのアメリカ大統領と、共和党および民主党が、特別な制裁措置をつかってこの産業を保護しようとしている。

遠く離れた国の過去にさかのぼってみれば、中国の毛沢東は鋼鉄にあまりにも執着しており、1950年代の終わりには、この金属の製造を増やそうとしたことが原因で、国の悲劇的結末に向けて舵を切ることになった。