人事施策やDXツールの導入が大失敗に終わる会社とうまくいく会社の違いは何か。一般社団法人HR Buddy研究所代表理事の佐藤優介氏は「目立つ失敗のパターンとして、トップの思いつき、コンサルタントの主観による提案、他社のマネという3つがある」という――。
GoogleやApple、Microsoftなど、世界の有名IT企業のロゴマーク
写真=iStock.com/pressureUA
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もし医者が「勘」で治療したら、どうなるか

経営者やCHRO(最高人事責任者)、人事部長とお話ししていると、成果が得られない人事施策の多さに嘆いておられます。目立つのが、「トップの思いつき」「コンサルタントの主観による提案」、あるいは「他社のマネ」から出発した失敗です。

メディアで華々しく報じられた施策が「自社の問題解決に効果的かもしれない」と発想すること自体は、悪いことだとは思いません。しかし、その施策が「本当に自社で機能するか」を検証することなく、いきなり導入してしまうのは大いに問題があります。

失敗を繰り返さないよう、私が専門で研究しているのが「EBM(Evidence-Based Management)」という手法です。単純に邦訳すると、「科学的根拠に基づく意思決定」であり、検証のない経営への処方箋といえます。

この研究は、もともと医療の分野でEBM(Evidence-Based Medicine)としてはじまりました。経験や勘のみに頼るのではなく、その時点で得られる最善の科学的根拠に基づいて治療方針を決めるという考え方で、それを経営や人事の意思決定に応用したのがEBM、科学的根拠に基づく意思決定です。現在では政策領域でもEBP(Evidence-based policy)として取り入れられています。

EBMは、2000年代にカーネギーメロン大学で教鞭をとり、全米経営学会の会長も務めたデニーズ・M・ルソー教授などによって理論化・体系化されました。しかし、その課題をルソー教授自身が「私が最も落胆したのは、研究における発見が職場に十分に反映されていないことだった」と述べています。ルソー教授は会長講演などを通じて、優れた研究成果が生み出されても、それが職場の実務に十分に活かされていない――研究と実践の間に大きな隔たりがある、と問題提起しています(Rousseau, 2006)。

学術研究によって一定の効果が確認された施策があっても、企業の現場までその情報が届いていない。これが、効果のない施策導入が繰り返されてしまう一つの大きな背景になっています。

佐藤優介氏
撮影=今村 拓馬
一般社団法人HR Buddy研究所 代表理事/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任講師 佐藤優介氏

ユニクロの初任給37万円に吊られていないか

では、EBMをどう生かすか。施策が有効かどうかを判断するエビデンスを「大きなエビデンス(Big-Evidence)」と「小さなエビデンス(Little-Evidence)」の2種類に分けて考えることです。まず「大きなエビデンス」とは、複数の企業や状況を横断して科学的に検証されるなど学術研究によって蓄積された普遍的な知見を指します。例えば、次のようなものです。

・心理的安全性の高いチームは、学習行動が活発になり、結果としてチームの成果が高まりやすい(Edmondson, 1999)

・採用面接は、面接官の印象で評価する「非構造化面接」より、全員に同じ質問をして基準で評価する「構造化面接」のほうが、入社後の活躍を予測する精度が高い(Schmidt & Hunter, 1998)

・360度(多面)フィードバックは、査定(評価)目的よりも、本人の育成を目的に使うほうが、行動変容やスキル向上につながりやすい(Smither, London & Reilly, 2005)

一方の「小さなエビデンス」とは、特定の企業や特定の状況において成立する事実のことを指します。例えば離職率、エンゲージメントサーベイ、採用ミスマッチなど、自社に蓄積された情報やデータを用いた分析結果である、自社の文脈に根ざした「小さなエビデンス」です。

先進企業の人事施策に高い効果が認められたとしても、組織文化や人材層、業界特性という「小さなエビデンス」に根ざした結果である可能性があります。話題に上がることが多いユニクロの初任給引き上げも、「競合他社との採用競争」という特定の文脈で機能したものです。別の企業がそのまま導入しても、自社の小さなエビデンスと合わなければ、同じ効果は得られないでしょう。

EBMでは、大きなエビデンスと小さなエビデンスを組み合わせて使います。学術領域で実証されている知見を手がかりにしつつ、自社のデータで分析します。さらには、現場の実務的な知見や、社員、ステークホルダーの声も含め、総合的に判断していくのがEBMの正しい手順です。

EBMを実践して実際に成果を上げている企業は、どのようにEBMを取り入れているのでしょうか。実践例として、私も執筆を担当した「人材マネジメントの革新」より、サイバーエージェントと住友商事を取り上げます。

CHRO エビデンス勉強会

参加費:各回5000円(税込)/3回セット1万2000円(税込)
定員:各回20名限定(定員に達し次第終了)
対象:プライム/スタンダード上場およびそれに準ずる企業のCHRO・人事担当役員・人事部長・経営企画部長など、経営人材の育成や組織づくりに携わる方
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