上司を飛ばして、役員だけが見られるデータ

サイバーエージェントでは、主要な経営陣8名のうちの1名がCHROであり、人事が経営の中核に位置づけられています。ユニークな取り組みとして、全社員を対象とした月次パルスサーベイ「GEPPO(ゲッポウ)」があります。

これは社員一人ひとりが、「快晴」から「大雨」までの天気記号で日々のコンディションを回答するアンケートです。ポイントは、直属の上司には閲覧権限がなく、役員と人事担当者のみが確認できる設計にしている点です。これにより、上司への忖度がない「精度の高い本音のデータ(小さなエビデンス)」を収集し、メンタル不調や離職予兆の早期把握など、人事の意思決定に直結させています。

また、新卒配属には、自社のデータを用いたスコアマッチングシステム「miCAEL(ミカエル)」を使っています。スモールeの取り組みによって、2023年時点のデータではありますが、働きがいを感じる社員が87.5%、離職率は7.4%という優れた数値を維持しています。

一方の住友商事では、新卒採用において自社が求める「ポテンシャル」を明確に言語化したうえで、配属先を確約する「Will型」と、配属先を限定しない「Open型」の選考を組み合わせています。新人の志向と配属のミスマッチを防ぐための、自社データに基づく仕組みといえます。2019年からは、本格的なアルムナイ・マネジメント(退職者とのネットワーク構築)に着手し、退職者の再評価や協働の機会を整備するなど、過去の自社データを活かす取り組みを進めています。

2社の事例からもわかるように、成功している企業は、大きなエビデンスとして効果のある施策を単にマネるのではなく、「自社のデータを集め、それを検証し、人事の意思決定に繋げる」というEBMのサイクルを仕組みとしてしっかりと回しています。小さなエビデンスと向き合い、自社に最もフィットした仕組みを構築・検証し続ける。それこそが、確かな成果を生み出す最大の秘訣と言えます。

佐藤優介氏
撮影=今村 拓馬
一般社団法人HR Buddy研究所 代表理事/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任講師 佐藤優介氏

なぜ、あなたの提案は通らないのか

人事部門の方々からは、「施策への投資を経営会議で認めてもらうこと自体が難しい」というお悩みをよく耳にします。原因は提案者が、「なぜそれをやるのか」を経営の言葉で説明できていないことにあります。「他社もやっているので」ではなく、「自社のデータを分析すると、この層にこの効果が見込める」と、根拠とセットで示せれば、経営の意思決定は一気に速くなります。人事施策に限ったことではありません。

人的資本経営が問われ、投資家も企業の人事情報を注視する時代です。だからこそ、エビデンスで語れる人事は、経営から最も頼られる存在になれます。EBMは、人事が「コストセンター」から「経営を動かす部門」へと立場を変えるための、確かな武器になるのです。