AI敗北と言われ続けてきた日本の産業界に変化が起きている。政府は21日に閣議決定した「日本成長戦略」でAIへの巨額投資を決め、その前にはエヌビディアのジェンスン・フアンCEOが来日し、日本企業を視察した。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「この熱狂を多くの経営者が誤解している。日本企業に本当に必要なものは、まだほとんど議論されていない」という――。

「ロボットを工場に入れる」では解決しない

政府はフィジカルAI分野に10.5兆円の官民投資を決定した。エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが来日し、日本の主要22社がCosmos Coalitionに参画した。ファナック、安川電機、川崎重工が富士通と組んで協調制御プラットフォームを構築するとも発表された。日本の産業界は、フィジカルAI時代の到来に沸いている。

しかし、この熱狂の中で、驚くほど多くの経営者が同じ誤解に陥っている。

フィジカルAIとは、工場にヒューマノイドを入れることだ、四足歩行ロボットで搬送を自動化することだ、AI画像検査で不良品を弾くことだ――といった具合である。

だが、これらはフィジカルAIの表層にすぎず、その本質ではない。

私が戦略コンサルタントとして複数の大手製造業のフィジカルAI導入を支援する中で、確信するに至ったフィジカルAIの本質とは、現場を学習し続ける場所に変えることだ。

設備が動くこと、無人化されること、ロボットが歩き回ることが目的なのではない。材料の変化を、加工の結果を、熟練者の判断を、失敗や例外の記録を、顧客の反応を、現場が日々学び続け、企業全体の知能として蓄積されていく――そうした構造を組織に埋め込むことこそが、フィジカルAI導入の本質である。

旋盤で金属加工を行うシニアの鉄工所職人
写真=iStock.com/YOSHIE HASEGAWA
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毎日、少しずつ賢くなる工場ができあがる

イメージしてみてほしい。昨日と同じことを今日も繰り返す工場ではなく、昨日の失敗から今日は少しだけ賢くなり、今日の発見が明日の設計に反映されていく工場。ある工場での気づきが、翌週には世界中の別の工場にも共有される。熟練者の勘所が、退職後もモデルとして残り、若手作業員がそれを引き継いで進化させていく。こうした工場こそが、フィジカルAI時代の「学ぶ工場」であり、日本企業がこれから作り上げなければならない姿である。

私は複数の大手製造業のフィジカルAI導入支援を通じてそれぞれの主力工場にも足を運び、同部門や経営戦略等の担当役員、生産技術部門の責任者、製造現場の熟練者たちに、時に1日がかりで話を聞いてきた。本稿でお伝えしたいのは、その一連の現場で見えてきた実態である。ただし、特定企業の貴重な知見が漏れることを避けるため、個別の企業名や業種を伏せ、複数のクライアント企業で得た経験を抽象化してお伝えする。逆に言えば、これから描くのは特定企業の特殊事情ではなく、日本の最先端製造業に共通する構造的な課題である。