「突き抜けた人物」こそが日本復活のカギ
私が教鞭を執る日本工業大学専門職大学院技術経営研究科(MOT)では、まさにこの問題意識に立脚した教育を行っている。これは本学に限った話ではなく、日本のMOT大学院が提供していることだ。テクノロジーの本質を理解し、ビジョンとパッションを持ち、そこからグランドデザインを描き、組織を動かせる人材――先ほど述べた「突き抜けた人物」を、体系的に育てる場である。
社会人大学院生たちは、大企業の管理職、中堅中小企業の後継経営者、事業開発リーダーなど、実務の最前線に立つ人々である。彼らが自社の事業をフィジカルAI時代に向けて再構想する課題に取り組んでいる。営業を「顧客の成果に伴走する仕事」に転換する構想、物流を「安心を届ける仕組み」に転換する構想、製造業を「学習し続ける工場」に転換する構想――生まれた経営構想は多岐にわたる。共通しているのは、いずれも「現場を学習し続ける場所に変える」という視点から、自社の事業をグランドデザインし直しているという点である。
本稿で提示した論点は、いずれも記事の紙幅の制約上、骨格しか描けなかった。MOTでは実際の現場での応用、業界別の戦略、具体的な実装ステップ、社会人院生が描いた構想の詳細、そして「現場を学習する場所に変える」ためのグランドデザインの描き方を授業で解説しており、特別講演も開いてより深く体系的にお伝えしている。
政府10.5兆円の熱狂の裏で、本当に必要な議論はまだ始まっていない。フィジカルAI時代を勝ち抜くために日本企業が真に取り組むべきことは、ロボットの導入でも、政府補助金の獲得でもない。ビジョンとパッションから生まれるグランドデザインによって、現場を学習し続ける場所に変えていくこと――これこそが、日本の産業界が再び世界に返り咲く唯一の方法である。

