※本稿は、和田秀樹『逃げ上手は生き方上手』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
「選ぶ力」の裏にあるもの
私が『受験は要領』を出すまでは、受験生がみなそれぞれ独学で勉強法を編み出していました。
ところが今は、書店の「受験コーナー」に行けば、「受験は要領」的な本がたくさん並んでいるし、ネット上にはいろいろな情報が行き交っています。
だから、今必要なのは、編み出す力ではなく、「選ぶ力」だと思います。そして、「選ぶ力」の裏には、それ以外からいかに逃げるかという「逃げる力」がひそんでいるのではないでしょうか。
その際、たしかに選ぶセンスも必要かもしれませんが、センスがなくてもひとつひとつ実際に試してみればいいのです。
ちょっと時間がかかるかもしれませんが、試すことで答えが見つかるのです。だから最も必要なのは選ぶ力だと思います。
これからは、作詞家にしろ作曲家にしろ選ぶ力が求められます。
たとえば、AIにクリスマスのラブソングをつくってと頼んだら、1万個くらいつくってくれます。その1万個を前にして、9999個から逃げ、「これ、いちばん売れそう」と選ぶ能力のある人がすごい作曲家といわれるようになるでしょう。作曲家はこの先、選ぶことが仕事になると思います。
「逃げる力」を発揮したワイン評論家の慧眼
ワインでもそれは同様です。やはり「選ぶ力」と「逃げる力」が大事なのです。
アメリカにはロバート・パーカーという有名なワイン評論家がいます。彼は当初アメリカの濃くて安い赤ワインを飲んでいましたが、弁護士になって3年目にやっと高いワインが飲めるようになったので、ボルドーの特級の中でもトップクラスで、評価も高いシャトー・マルゴーを飲んでみたところ、美味しくなかった。
そこで、他人の評価に頼るのではなく、自分が美味しいと思ったワインに高い点をつけていこうと『ワインアドヴォケイト』誌を創刊し、100点満点で独自の採点を公表しました。これがパーカーポイント(PP)で、今ではパーカーの評価によって世界のワインの価格が決まるとまでいわれています。
ここでも当然、「選ぶ力」と、その前に何千ものまずいワインから「逃げる力」が働いているのは言うまでもないでしょう。