※本稿は、和田秀樹『逃げ上手は生き方上手』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
60代以降は「年齢を気にする」ことが多くなるが…
「年齢を気にする」というのは、じつはどんな年代にもあるように思います。
一般的には50代以降の“専権事項”と考えられているようですが、10代の人は20代を目前にして「もうすぐハタチか。時の流れって早いな……」などといった感慨を持つかもしれないし、20代も後半になれば30代を意識し、40代になれば50代を意識し……といった具合に“年代の壁”があるのは各世代共通なのです。
そしてそれは70代、80代になるまで延々と続きます。
とくに「先行きがそれほど長くない」と考えている人が多いかもしれない60代以降の人は、「年齢を気にする」ことが多くなるように思います。
そんな人たちのなかには「もうトシなんだから」と、健康診断の数値ばかりを気にして、食事制限をあれこれ設け、その挙句に心が塞ぎ込んでしまうという人は意外に多いようです。
その結果、健康診断の数値は悪くなくても、自他ともに若さや元気が感じられなくなっていくこともあります。
それでは本末転倒というものです。私の経験上、心が元気で気分が明るければ、数値が多少悪くても生活や仕事上は問題ないものです。元気な自分に意を強くして、数値などあまり気にせず、伸び伸びと暮らしたほうがはるかに健康的で、若々しい人生を送ることができます。
数値は多少悪くても、心は健康なのですから、60代以降は年齢をあまり意識せずにすごしたほうが、結果的に長生きできると思います。
「老人性うつ」に陥りやすい思考パターンとは
また、これといって具合の悪いところもないのに、自分から「もうトシなんだから」と、何事も年相応で考えるのもよくありません。そういう考えの人は得てして、食事だけでなく暮らし方全体に制限を加えたりするので、結果として老いを加速させることになります。
高齢者専門の精神科医の立場から言わせてもらえば、そもそも「もうトシなんだから」と考えること自体が、老人性うつに陥りやすい思考パターンなのです。
「もうトシなんだから」という考えのあとに続くのは「60歳を過ぎたら△△をしてはいけない」とか「70歳になったら○○であるべきだ」という「かくあるべし思考」になる場合が多いからです。
さらに言えば、「トシ」=「老い」という言葉の使い方もよくありません。「トシ」は「トシ」でしかないのに、自分から「老い」に結びつけてしまっています。
でも、「トシ」というのも単なる年齢以外の何者でもありません。自分から「老い」を早める必要もありません。若く見られる人ほど、いくつになっても元気で、トシのことなど忘れているものです。
トシのことなど、「考えない」「口にしない」。つまり、年齢から逃げる。たったこれだけのことで、アンチエイジングであれこれ試みるよりも若さを保つ効果が得られるかもしれません。