怒りの電話が鳴った朝
県立高校の朝は早い。7時台の職員室はまだ肌寒く、誰も大きな声を出していないのに、印刷機の音とパソコンの起動音だけが、1日の始まりを先に告げているようだった。
G先生が自分の机に鞄を置いたのは、始業までまだ少し時間のある頃だった。2年3組の担任を受け持って2年目。高校の担任は、中学校よりも少し距離を取って生徒を見る場面が多いとはいえ、朝のうちに確認しなければならないことはいくらでもある。欠席連絡、進路関係の提出物、部活動の公欠、学年からの申し送り、保護者から届いたメール。パソコンを立ち上げ、今日の流れを頭の中で並べ始めた、そのときだった。
職員室の電話が鳴った。事務の職員がまず受け、少し困ったような顔で受話器を押さえた。
「G先生、2年3組の保護者の方です。かなりお怒りのようで……」
G先生は一瞬だけ息を整えてから、受話器を受け取った。
「お電話代わりました。2年3組担任のGです」
名乗り終わるか終わらないかのうちに、相手の声が飛んできた。
「先生、どうなってるんですか!」
女子生徒の母親だった。
「確認してからじゃ遅い」と言われても
声は高く、速く、切迫していた。泣いているというより、怒りと焦りで自分を支えているような調子だった。
「昨夜、うちの娘がクラスのLINEグループから外されたんです! それだけじゃないんですよ、インスタの裏アカみたいなもので、うちの子の悪口まで書かれてるんです! 本人はもうショックで、朝から泣いて、学校なんか行けないって言ってるんです! これ、いじめですよね!」
G先生は椅子に浅く腰掛けたまま、手元のメモを引き寄せた。
「そうでしたか……。まず、お子さんの今のご様子を――」
母親はかぶせるように言った。
「様子じゃないんです! 傷ついてるんです! 夜中に何人かで既読無視して、グループから外して、陰で悪口を書いて。昼間は教室で普通にしてるくせに、夜になったらこういうことをするんですよ。こんなの、学校のクラスの中のいじめじゃないですか!」
G先生は、相手の勢いに押されそうになるのをこらえながら言った。
「状況は重く受け止めます。もし可能でしたら、やり取りの画面や書き込みの内容を確認させていただいたうえで、こちらでも関係する生徒に――」
「確認してから、じゃ遅いんです!」
母親の声がさらに鋭くなった。


