どこまでが学校の問題なのか
怒っているのは、たぶん怖いからだ。子どもが傷ついたとき、親は何かを責めることでしか立っていられないことがある。G先生はそう思いながら、何度か頭を下げるように声を低くし、まず今日の午後に面談の時間を取ることを約束した。
電話を切ったあと、G先生はしばらく受話器を見つめたまま動けなかった。
斜め向かいの席から、学年主任が小声で聞いた。
「何かあった?」
G先生は短く事情を説明した。主任は眉を寄せ、「またか」とも「大変だな」ともつかない顔でうなずいた。
「教頭にも入ってもらった方がいいね」
1時間目が始まる前、G先生は教頭のところへ行った。教頭は朝の打ち合わせ資料に目を通していたが、G先生の顔を見ると手を止めた。
「どうしました」
G先生は、保護者からの電話の内容を順に説明した。LINEグループから外されたこと、裏アカへの書き込み、謝罪要求、保護者会要求、そして教師もグループに入るべきだという話まで。
教頭は最後まで黙って聞いてから、椅子の背にもたれた。
「厄介ですね」
「はい……。学校のことではないとも言い切れないんですが、私物のスマホの中の話でもあって」
「そうなんです」
できないことを明示する責任
教頭は静かに言った。
「学校で起きたことなら、学校のルールで動けます。でも、夜の家庭の中で、個人の端末で、閉じたグループで起きたことを、学校が全部監督することは本来できません」
G先生はうなずいた。
「保護者の方から、LINEに先生も入ってくださいって言われました」
教頭は少し苦い顔になった。
「それは無理です。学校として認められません」
「やっぱり、そうですよね」
「ええ。個人情報の問題もありますし、教師が生徒の私的なSNSに入るのは危ない。やり取りが個別化すれば、記録も残りにくいし、言った言わないにもなります。異性の生徒であればなおさら、余計な疑いを招くこともあります。そういうルールは、教師を守るためでもあるんです」
「実は、昔も似たようなことがあったんです」
G先生は顔を上げた。
「似たようなこと、ですか」
「ええ。ずいぶん前ですが、男の先生が生徒とLINEを交換していたことがあったんです。部活か何かの連絡を取りやすくするためだったと思います。本人には下心なんてまったくなかったでしょうし、実際、相手は男子生徒でした。だから当時の先生方の中には、“それくらいなら実務上は便利だろう”という感覚も少しあったんです」
G先生は黙って聞いていた。


